□SURVIVAL second 1□



「……おい、そんなに頭を出すな」
 左側から心底イライラとした声がする。
 言われた通り窓から頭を引っ込めると、すぐにこめかみや胸の間から汗が湧き出てくる。
 出発してまだ一時間ほどなのに、暑いのと息苦しいので頭が沸騰しそうだ。
 急スピードで変わっていく車の窓からの景色はもう一面緑色だというのに、涼やかさとは無縁の車内は、窓を全開にしてもむっとした風が入り込んでくる程度で全く温度が下がらない。
 乱暴な運転で、クッション性皆無の車は縦横にガタガタと揺れる。今俺と中嶋さんが乗っているのは、車の事をよく知らない俺でもわかるぐらいオンボロでとてつもなく古い車。和希が言うには年代ものの価値のあるアメリカ車らしい。言われると確かに洋画に出てくるような大雑把な印象の車体だけれど、今どきクーラーもラジオさえもないこんな車をBL学園のレンタル車にしている和希の気が知れないよ。BL学園の従業員用の車は名目、和希の趣味で集めたへんてこな車で占められているのだ。
 これしか空いていなかったのも頷ける、こんな暑い日にクーラーなしの車なんて誰も乗るわけがない。中嶋さんだって今日しか空いてなくて、電車で行ける場所だったら絶対に乗らなかったはずだ。

 まだまだ続く残暑の中、俺と中嶋さんは二人で林間学校の下見に向かっていた。
 往復で六時間、目的の場所での滞在時間は約ニ時間、下見に与えられた時間は合計八時間きっちり。学園に戻れば次の仕事が分刻みで待ち構えている。それぐらい今の時期の学生会は大忙しで、秋は運動会に学園祭と行事が重なっている中、さらに今年から始まる希望者だけを募って行われる林間学校まで重なり、その下見と準備までしなくてはならない状況で。
 王様が自分のバイクで行ってやろうか、とうれしそうに提案しても中嶋さんにすぐに却下されていた。今学園外に行かせれば二度と帰ってこないと予想したんだろうし、正解だろう。
 そんなわけで、すべての行事の責任者である中嶋さんが今学園から出ることは不可能に近かったんだけど、自分の目でひとつひとつ確認し決断する中嶋さんに妥協という文字はなく、結局土曜日の八時間を割いて、俺をひきつれ自ら車を運転しているというわけで。
 中嶋さんはあと二ヶ月ほどで十八才になる。なのに何故運転できるのか。素朴ながら最も重要な疑問を投げかけると中嶋さんは無言でりっぱな免許証を差し出した。
 それは、和希がグループに内密で作らせた偽の免許証。
 何かと便利だろう? と王様の横で不適に笑う和希に空いた口が塞がらなかった。そんなこともするのかと和希の仕事を疑うよ、ほんと。
 そんなわけで俺と中嶋さんはなんとか出発した。中嶋さんの運転は学園内で乗り回していたので問題はないものの、身体が左右に揺れるのは車のボロさのせいだけではなく、分刻みの忙しさと車内の暑さで不機嫌極まりない乱暴な運転のせいでもあるのだ。
「はぁ……」
 うるさいエンジン音でかき消されるよう、右側の助手席でこっそりと溜息をついてみる。
 二人きりのドライブを楽しむ余裕は、今の中嶋さんにはないんだろう。せっかくの遠出で、美しい山道を走っているというのにろくに会話さえないんだ。
 実をいうと、俺の方は楽しくて楽しくてしょうがなかった。だって、初の車でのデートだぞ? 舞い上がるのは仕方ないじゃないか。
 それに最近はちっとも俺に構ってくれなくて、仕事の会話以外の話もろくにしていなかったんだ。
 窓の外に顔を向けているのは暑さのためだけではない。ニヤけた顔を見られないようにするためと、中嶋さんが視界に入ってこないようにしているからなのだ。知られたら絶対にせせら笑われるどころか、今の中嶋さんなら完全無視だろう。
 アメ車というだけあって明るい青の車体はとても大きい。運転席もゆったりしていて身体の大きい中嶋さんも楽そうだ。いつもきっちりと着こなした制服の白いシャツはネクタイをとっぱらい、上ふたつのボタンを外している。ハンドルを片手に、タバコを 咥えながら乱暴に運転する姿は男の俺でも惚れ惚れするほどかっこよくて、額にうっすらと汗がにじみ、汗で髪の毛先が少し濡れているのも様になっている。
 運転する中嶋さんを目の前にして、暑さとは違う息苦しさを感じてるんだ。
「……何だ」
 ドスの聞いた声に、またいつのまにか見惚れていたのだと気がついて慌てて正面を向いた。
「いえ、何でもありませんっ」
 簡潔にそれだけ言って背筋を伸ばすけれど、背中に汗が伝うのを感じてすぐに力が抜けてしまう。汗をかいても様になる中嶋さんとは違って、俺はだらしなく見えていそうで情けない。
「ぼうっとしてる暇があったら、この暑さをまぎわらせる方法を何か考えろ」
「そんなこと言われても……」
「どうしてこの車はラジオもないんだ。啓太、お前が何か歌え」
「ええっ」
「この際音痴でも許してやる」
 ひさしぶりに会話になったと思えばこれだ。だけどからかいまじりの声がうれしくてつい笑顔が零れてしまう。クーラーをつけろなどできもしない事を言われながら、横目で中嶋さんを盗み見るとシャツからのぞく太い腕が見えて落ち着かなくなる。アクセルを踏む長い足は横に並ぶ俺よりも明らかに太く長くて男として少しくやしい。
 車の中は密室で二人きり、しかも簡単に触れるほどの至近距離。
 好きな人と一緒に乗ることがこんなにも緊張するとは思わなかった。中嶋さんの運転の動作ひとつを身体が追いかけて、必要以上に意識してしまってる。中嶋さんの運転に身体を預けていることも心地いいとさえ思ってしまう。
 中嶋さんの機嫌がもうすこし良ければ、このままずっと乗っていたい。暑くたって我慢できる。
「あ! あそこに自販機がありますよ、ジュース買ってきましょうか」
 山沿いの道の茂った草にまぎれて、ぽつんと立った古びた赤い自販機が見えてくる。スピードを出していたため数十メートル行き過ぎて車は止まり、ユーターンをするために中嶋さんが後ろを振り返りながらバックを始める。俺の方に身体を向け上半身を曲げてきて、綺麗に伸びた首筋やシャツから覗く首筋が眼前に迫りそこに釘付けになる。
 目を剥いている俺を怪訝そうに見下ろす中嶋さんと目が合って、慌ててドアを開けて外に出た。車が止まったのに気がつかないほど見惚れていたらしい。
 中嶋さんとの急接近はうれしいけれど心臓に悪いよ、ほんと。
 適当なジュースを二本選んで急いで車に戻り、中嶋さんがすぐに車を出発させる。

 まずジュースを空けて中嶋さんに渡そうとしてももちろん運転中で、信号がないので止まる場所がなくどうしたものかと考えあぐねていると、前を向いたまま中嶋さんが言った。
「飲ませろ」
「……え」
 笑いもせず素で言ってのけるので、どうやら冗談ではなさそうだ。俺は缶ジュースを中嶋さんの口に持っていき、視界を遮ってしまわないよう注意しながら缶を傾ける。車が揺れてうまくできず中嶋さんの顎にジュースが流れてしまい、慌てて謝りながらも形のよい顎に流れる液体と、乱暴に手の甲で顎を拭うしぐさに無駄に心拍数が上がってしまう。
 缶をひっこめる途中、車が大きく揺れてギアを掴む中嶋さんの手に思い切りジュースがかかった。
「すすすいません!!」
 オレンジ色の液体が袖口から甲、指先にまでかかり、中嶋さんが無言で車を道端に寄せて停車する。俺は急いでハンカチを鞄から取り出して中嶋さんの右手を拭きとった。
「すいません、すいませんっ」
「……べたべたするな」
 溢したのがジュースだったので、乾いた布でいくら拭き取ってもべとつきが取れない。水でちゃんと流さなければとれないだろう。気持ち悪そうにしている中嶋さんに申し訳なくて目を合わせられない。
「……どこかで濡らさないと……」
「川にぶつかるまではまだ距離がある」
「……すいません……」
 がっくりとうな垂れているといきなり顎を掴まれ、中嶋さんが助手席に身体を傾けてきて驚いている間もなく、俺の上に被さってくる。
 中嶋さんが一体何をしているのか、しばらく理解できない。目を閉じることもできず、数センチという至近距離で眼鏡越しの中嶋さんの切れ長の目と視線がぶつかって、ようやく今俺がキスをされていることに気が付いた。
 柔らかい唇が俺の口を覆っている。
 何がなんだかわからないまま、塞がれたまま動かない中嶋さんの唇から全身に熱が一気に伝わってたまらずに目を閉じた。濡れた舌が下唇をゆっくりなぞっていき、やんわりと甘噛みされて背筋にびりびりと電流が走る。そのまま触れるか触れないかのタッチで何度も唇を触れ合わされ、俺の性感はどんどん高まっていくのにいつまでも舌を入れてくれない。もどかしさに口に唾液が溜まってくる。
「ん……ぁ……」
 舌を伸ばして中嶋さんの中に入ろうとすると逸らされて頬や口角のあたりにキスをしてきて、それも気持ちいいけれど舌を入れてほしいと中嶋さんの頭に両手を回して引き寄せた時、口の中に入ってきたのは中嶋さんの指だった。
「んんん」
 舌ではないけれど、俺はすぐにそれに舌を絡ませて吸い込んでしまう。丹念に舐めているとすぐに二本、三本の指が入ってきて、圧迫感に身体を震わせながら音を立てて舐め続けた。口を離して更に親指と小指にも舌を這わせる。どこもジュースの味がして甘い。そんな俺を楽しそうに見ている中嶋さんの視線にさえ興奮してくる。二人きりの車内でずっと昂ぶっていた身体はすぐに火がついて、中嶋さんの腕を掴み、咥えた指を無意識に扱くような動きをしてしまう。
「ぅ、ぅん……っ、ん……」
 長い骨ばった指を感じているだけでどんどん唾液が溢れ、顎に伝っていくのもかまわずしゃぶり続ける。口内でぐり、と上顎を指の腹でなぞられて、汗ではないものが下着を濡らすのを感じる。
 いきなり指を引き抜かれ、俺を覆っていた身体が遠のく。動けずにぼうっと中嶋さんの行動を見つめていると、俺の膝に乗っていたハンカチを掴み俺の唾液で濡れた指を拭きとり始めた。
 中嶋さんが車を発進させても、わけがわからない俺は中嶋さんを口を開けて見つめたまま。
「少しはましになった。今度は溢さず持っておけよ」
 ダッシュボードに置かれた缶を慌てて掴んで、やっと意味を理解した。べとついた手がしばらく洗えないから、水の代わりに俺の唾液を代用したんだ。
 一人で盛り上がっていた恥ずかしさと怒りで顔を赤くしたり青くしたりしている俺に、中嶋さんが今日はじめての笑顔を見せる。といっても片方の口角を上げる程度のいじわるなものだったけれど。
「……ひどいです……」
「いいことを考えた」
「……知りませんっ」
 ふてくされて缶をぽこぽこと鳴らす俺を気にもせず中嶋さんは話を続ける。どこまで自分勝手な人なんだ。
「そこで一人でやれよ。いい暇つぶしになる」
「……何をですか」
「そのズボンを突っ張ってるモノを扱くんだ」
「……は?」
 自分の下半身を見下ろすと、そこは立派に存在を主張していて――慌てて両手でそこを隠すと必然的に持っていた缶は手から離れる。
 慌ててそれを掴もうとする手が滑り、運悪くジュースはシャツからズボンにかけて飛び散り、残っていたものをすべて出しきってから足もとに転がった。
「――……あぁあ……」
 自分のあまりのマヌケさに溜息しか出ない。黄色い染みがシャツからズボンに地図のように広がっていくのを呆然と見つめ、ハンカチ
拭うことも隠すことも忘れてしまう。
「……何をやってるんだ……」
 呆れきった声にも反応できなかった。言われなくても俺が一番自分に呆れているところなんだ。情けなくて泣きそうになるけど、泣いたらますます呆れられるから我慢する。
「………気持ち悪い……」
 ただでさえ汗で湿って肌にまとわりついていたズボンが更に濡れて、じわじわと冷たさが伝わってくる。
「早くズボンを脱げ、下着も濡れるぞ」
「そんなの無理です……っ」
「そんなところがべとついたら気持ち悪いと思うがな」
 言われた事はもっともで、わかっているけどここでズボンを脱ぐというのはとても勇気がいることで、だってあそこは反応したままだし――そうやって悩むうちにジュースはじわじわと浸透していく。
 帰るまで気持ち悪い思いをするぐらいなら、今思い切って脱いでしまった方がいい。


 仕方が無いじゃないか、恥ずかしがっている場合じゃないんだ。そう決心してベルトを外し腰を上げてズボンを一気に膝までずらすと、判断が遅かったせいでグレーのボクサーパンツは真ん中から左にかけて十センチ程の濃い染みを作っていた。
 本当に、俺ってばどうしてこんなにバカなんだろう。
「濡れたついでだ、扱いて気でもまぎらわせろ」
「い、いやですっ」
 ちらりと目をやるだけで運転を続ける中嶋さんはあくまでも冷静で、中嶋さんが指なんか舐めさせるからこんなことになったんだと逆恨みしたくなる。
 とにかく勃起したそこの熱が早く治まらないかと手で仰いでそこに風を送っていると、思い切り吹き出して中嶋さんが笑い出した。驚いて見ると見惚れるほどの鮮やかな笑顔があり、恥ずかしさも忘れて口を開けたまま呆けてしまう。
「少しは治まったか?」
 どうしよう、もっと見たい。
 二人きりでもっともっと一緒にいたい。いきなりそんな気持ちが溢れてきて止まらなくなる。
 あそこも気分の上昇とともに更に反応し始めて、もう治まりきらない状態で。ほんとにゲンキンな身体だよ、見せればもっと笑ってもらえるだろうか、なんて思い始めてる。
 そろそろと下着の上からまだ少し柔らかいそこに触れる。手のひらで何度か押さえてみると甘ったるい快感が這い上がってきて、布越しに親指の腹で先端を撫でるとジュースではないものの湿りが広がる。
「……ん……っ」
 中嶋さんから小さな笑いが漏れるのが聞こえたけれど、俺をそのままにして無言で車を走らせる。その横の助手席で、手をゆっくりと動かし息を荒げてているのはすごく恥ずかしい。でもさっきしてくれたキスを思い出しながら、中嶋さんを盗み見ると更にそこが反応していく。
「……ぁあっ!」
 中嶋さんの手が伸びてきて、布の合わせ目を掴みそこを露出させられた。驚いてもがいても、二三度扱かれて抵抗しようにも力が入らない。
「や、やだ……いやです……っ!」
「一人で楽しむな」
 車中とはいえ晴天の太陽の光が差し込む中に晒された、赤みを帯びたそこがリアルに視界に飛び込んできて眩暈がする。すぐに下着の中にしまおうとするのに、完全に起立したそこはなかなか入ってくれない。
 手をすぐにギアに戻して飄々と言われても、運転していて見れないんだから出さなくてもいいじゃないか。そう訴えても無言の迫力に圧倒されて、隠そうとする手が止まってしまう。いや、動かせないんだ。
 抵抗すれば治りかけていた中嶋さんの機嫌が元に戻ってしまう、直感でわかるのだ。
 合わせ目から竿だけを突き出して、その卑猥さに目を背けたいのに。凝視しながら吸い付くようなそこを握りしめてみる。直に触れられたそこが大きく縦に揺れた。
「こんなの、こんなの……、ぅ……」
 ゆっくりと上下に擦り始めると、裏筋がぴんと張り詰めてぐんぐんと勢いを増してくる。こんな自分の姿をどこかで見たことがある、車内と身体の熱に浮かされた頭に浮かんだのは、幼い頃見た光景だ。
「いやだ……いや……だ……っ、中嶋さん……っ!」
 俺は悲鳴のような声を上げてしまう。手招きされて近寄った車のなかのおじさんがしていたんだ。
「こ、これ……じゃ、変態……っ!」
「安心しろ。十分お前は変態だ」 
 慰めどころか更に俺をおとしめる言葉が心臓に突き刺さり、そうじゃない、中嶋さんのせいだと否定したいのに、手を止められないのは俺自身で、ますます興奮しているのは明らかで。
「せっかくだから人通りのある道を走るか」
「やめて下さいっ……!」
 そこで初めて中嶋さん以外の人に見られるかもしれないことに気が付いて、隠さなきゃってそう思うのに、ぞくりと背筋を這い上がるのは先端から大量の透明な液が漏れるほどの異様な興奮だった。扱く手が濡れて滑りをよくしたそこは反り返り固くなっていく。止められないなんて、俺は本当に変態なんだろうか。
 そこが漏らす音を聞いてほしいとまで思いはじめているなんて、中嶋さんが知ったらどう思うだろうか。中嶋さん以外の人に見られたくないと思うのに、中嶋さんに興奮している俺を見て欲しいなんて。
 荒い息を吐きながら扱いていると、窓の外に反対車線から来た車とすれ違い身体が硬直する。
「堂々としたものだな」
「……っ」
 夢中になって気がつかなかったけれど、本当に中嶋さんがそんな道を選んだのか、それを皮切りにどんどん対向車線を車が横切り始めた。本当に見られるかもしれない、なのに更に身体が昂ぶり隠すことさえ思い浮かばなくなる。
「ぃや、いやです……っ、やめて下さい……」
「だったら止めればいいだろう」
「……、そんな、……ぅう、あ……っ」
 こちらにやってくる大きなトラックの運転席の人が俺を見ているような気がして、緊張で身体が強張り動けなくなる。運転席が高い場所にあるから、見下ろせば簡単に俺が何をしているかわかるはずだ。逃げたいのに動けなくて中嶋さんに助けを呼んでも、何も返ってはこない。
「――っ」
 すれ違う瞬間とっさに目を閉じた。見られただろうか、俺のことを変態だと思っただろうか。男同士で車に乗り、助手席の男がそこを晒して扱いているなんて、ズボンを膝まで下ろし下着からあそこを取り出し、思いきり扱いているなんて。男の中嶋さんに喜んでほしいからなんて。
 俺は多分おかしいんだ。何台も車がすれ違う度にますますそこを濡らしているんだから。
 もう片方の手で袋を布越しに揉んで、ますますあそこが濡れそぼり下着がジュースでないもので汚れていくのは明らかだ。
「ぁ、……あっ、――やぁあ」
 窓の外まで聞こえるだろう卑猥な音はもちろん中嶋さんにも聞かれているだろう。

 近い限界に腰が揺れ始めてしまう。ズボンがひっかかり足を思い切り開けないのがもどかしい。尿道口を親指でこねると腹に糸をひきながら雫が零れる。
「な、なかじ、まさん……っ、中嶋、さん……っ、あ、あ――」
 横に本人がいるというのにその名前をうわ言のように何度も繰り返し、絞り出すように扱くと身体中から汗が吹き出てくる。開いたままの口の中は渇いていて何度も唇を舐める。
「喉が渇くか、啓太」
「ん、……ぁ、ぁあっ」
 喘ぎながら何度も頷くと、急に身体が傾いて車がカーブするのを感じる。そのままゆっくりと動きが止まって中嶋さんが車を止めたのだと朦朧とした頭で思った。もう手を止めろというのだろうか。霞んだ目で中嶋さんを見ると、ダッシュボードの上にあったもう一本の缶ジュースの蓋を開けて俺の口に近づける。飲ませてくれるのかと口を少し開くと、缶の縁が唇に触れないまま、冷たいジュースが口に零れてきて顎から胸までをどんどん濡らしていく。それでも喉を潤したくて更に口を開けて液体を受けとめ、甘いジュースの味が口の中いっぱいに広がってゆく。
 半分くらいは飲みほせたものの、その残りは身体に流れて、いつの間にかボタンを外され曝け出している素肌がジュースで完全に濡れていた。だけど熱い 体に冷たい液体が心地いい。
 中嶋さんが俺に覆いかぶさるように屈みこみ、濡れたへその上をぺろりと舐めて驚く。
「な、な……、中嶋さ……っ、ぁあっ」
 腹の辺りを中嶋さんの舌が這い回り、突然の刺激に掴んだあそこを強く握り締めて絶頂をやり過ごしても、音をたててジュースを舐めとっていく感触に鳥肌が立つほどに感じてしまう。中嶋さんの大きな身体が俺の身体のあちこちに触れて、そこからも電流のような快感が駆け抜ける。思わず手を離して背中にしがみつこうとすると止められた。
「お前はそのまま続けてろ」
「や、……や、やめて……っ、やだ……中嶋さん……っ」
 強い性感についていけず涙が浮かぶ。もっとしてほしいとせがんで腰がせりあがり、舌に合わせて身体をくねらせてしまう。舌がゆっくり上に上がってきて、舐めている中嶋さんの冷静な目にたまらず目を閉じる。どうしてそんな平然とした顔で舐め
るんだよ。
「やぁ……! う、ぁあ――……っ」
 固くしこった乳首に舌が這わされたとき、俺は大声を上げて身体を跳ねさせた。熱い舌がそこについたジュースを音をたてながら丹念に舐めまわしている。
「……ひ、……あう……ぅ――」
 硬い先を押しつぶされ、口の中に含まれて舌や歯でもみくちゃにされる。乳首が溶けてなくなってしまいそうで、かぶりを振って俺は泣き始めてしまう。
 中嶋さんとこういう関係になってから、まるで躾のように散々覚えこまされてきた。
乳首を弄られる快感は、いつの間にか漏らしてしまうぐらいに感じるようになっているんだ。
「や……ぁっ、た、食べ、ちゃ……ぁ、あ――……っ」
「ここは俺のものだったな」
「う、……あぅ……っ」
「食べようが何をしようが俺の勝手だ、そうだろう?」
 本当に食べられてしまう、そんな恐怖を感じてしまうほどひどく弄られ、更に唇が乳輪ごと覆うと音を立ててすべてを吸い込まれて、握りこんだあそこから一気に熱いものが吹き出した。
「ァ――、ひ、ぅ……っ」
 腰を大きくグラインドさせ何度も放ち続ける間も乳首へのきつい攻めは続き、千切られるんじゃないかという恐怖に怯えながら、とうとう最後の一滴まで出しきってしまう。
 「………何もかもべたべただな」
 汗とジュースと、それに精液と。
 ぐったりと背もたれに身体を預けて荒い息を整えている俺を見渡し楽しそうに中嶋さんが言った。まだ下半身から血がもどらない真っ白の頭では中嶋さんのせいだと言い返すことも出来ず。
 はだけた服をそのままにして、再び車は発進した。






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