■乳首のススメvol,1■



それは、お昼休み、昼食を食べて、鞄を開けた時だった。

「あ…体操着忘れた…!」
お昼からの体育の授業だというのに。
「忘れたのか?」
俺の前でお昼ご飯を食べていた和希が、心配そうに声をかけてくる。
「うん…そうみたい…」
どうしよう、今から寮に戻っても間に合わないよ。
誰かに借りようにも、他のクラスがないので借りることができないのだ。
借りれるとしたら、2年、3年生の上級生のクラスの人しかない。
「誰かから借りるか?今から寮に取りにいく時間もないし…」
「どうしよう…」
考えても仕方ない、制服で受けようか…と諦めかけた時。

ガラっと教室のドアが開いて、エンジのネクタイをした人が入ってきた。
上級生がやってくることはめずらしいので、みんなが一斉に振り返る。
「臣さん!」 俺は立ち上がって声を上げた。
臣さんは俺たちを見つけると、にっこりと微笑んで近づいてきた。
「こんにちは、遠藤君、伊藤君」
「どうしたんですか!?」
俺と和希が同時に叫んでしまった。

その用事は別に急いでいるというものではなくて、 和希にちょとした
伝言だったんだけど(一度下級生の教室に遊びに来たかったそうだ…)、
和希がいいこと思いついた、と臣さんに声をかける。
「体操着?いいですよ。持ってますから今持ってきますね」
「いえ!!いいですっそんな!!」
本気で戸惑って断る俺ににっこりと笑いかけて、俺の話も聞かずに
臣さんはさっさと教室を出て行ってしまった。
「ど、どうしよう…」
臣さんに借りるなんて…そんなの申し訳なさすぎるよ。
「いいじゃないか、この際借りたらさ。まあサイズは大きすぎると思うけど」
「だって悪いよ…、俺追っかけてくる!」
俺は教室を飛び出して、上級生達の棟に走った。

あれ、臣さんもう見えない…っ。
「はあっ、はあっ…臣さん…、足、速いよっ」
「あれ?伊藤君」
かがみこんで息を切らしていたら、驚いた顔で臣さんが目の前で、
体操着を持って立っていた。
「とりにきてくれたんですか?待っていて下さったらよかったのに。
はい、これ。洗濯はしてますから綺麗ですよ」
「は…、はい… あ、ありがとう、ございます…」
う、受け取ってしまった…。
だって、もう持ってきてもらったのに、断れない…。

「啓太、こんなところで何をしている?」
体操着を両手に抱えて、教室に戻ろうとしたときだった。
振り向いて少し見上げると、そこには中嶋さんがいた。
「な、中嶋さん…」
無表情で俺を見下ろす中嶋さんとは反対に。
授業中に上級生に遭遇することは少ないので、俺はうれしくて自然と顔が
ほころんだ。
それに、一番会えてうれしい人だし…。
「あ、俺、体操着を借りにきて…」
「誰にだ?」

しまった。
どうしようどうしよう…、正直に言ってしまっていいのかな…。
正直に言うのもこわいけど、嘘ついたりしたら…もっとこわい…。
眼鏡の奥の目が鋭い。
とても綺麗な目をしているからよけいに、睨まれたら身体がすくむほど怖いのだ。
俺は目をそらして、その目を見ないよう、うつむいて小さな声で、
正直に答えよう、とした。
「まあいい。
丁度いい、ちょっと学生会室に来てくれないか。すぐに済む」
「え…あ、はいっ」
俺はほっと胸を撫で下ろした。
よかった… 追求されなかったよ…。
中嶋さんの後について、俺たちは学生会室へと急いだ。

「着替えろ」
「え?」
「早くそれに着替えるんだ。時間がない」
それ、というのは、今借りてきたばかりの、臣さんの体操着。
学生会室に入って、中嶋さんは第一声にそう俺に言った。
「どうして…」
「いいから着替えるんだ」
そんな…。だって今は昼休みだし、学生会室で2人きり…だけど…、
今の雰囲気はなんだか、そういうことじゃない…。
「更衣室で着替えます…から」
「…恥ずかしい思いをするぐらいなら、ここで着替えた方がいいと思うが」
「え?」

「それは七条の体操着だな」
「ええ!?」
俺は目を見開いた。
そんな…!
どうしてばれてるんだよっ!?
「何故あいつに借りたのかは聞かないでおく。
だが、これで俺の言うことを聞く必要がある…と思わないか?」
「な、中嶋…さん…」
どうして、ともいやだ、とも言えないすさまじい迫力で…。
俺は、言うことを聞くことしかできなかった。

本棚の後ろに隠れ、臣さんの体操着に着替えて 中嶋さんの前に現れた時、
中嶋さんはなにか小さなものを 手にもち、それを触っていた。
俺は体操着の上と、短パンという格好で、中嶋さんの前にいる。
なんだか…変なかんじ…恥ずかしいというのも、男同士なのに 変なんだけど…。
中嶋さんは、少しとまどっている俺を見ようともしない。
「胸を出せ」
手にしたものから目を離さず、中嶋さんが言った。
「え?」
「その体操着をめくって、胸を出すんだ」
「な、なんで…」
「早くしろ」
なに、なにをしようとしてるんだよ。
そんな意味じゃないってわかってるんだけども、ドキドキしてくる。
俺は言われたとおりに両手で上着をたくしあげ、少し胸が見えるところまで
持ち上げた。
中嶋さんが動いて、手に持っているものが見える。

それは、小さな丸いタイプの湿布だった。
直径3センチぐらいの、肌色をした、肩などに貼るタイプのもの。
それを剥がして、中嶋さんは俺のはだけた胸に冷たい手を這わせた。
俺は驚いて身体をよじる。
「中嶋さんっ?」
「動くな」
まさか…うそっ!
「わっ…っ!」
俺の胸に…それを、貼り付けたのだ。
驚く間もなく、もうひとつも貼り付けられる。
ちょっ、ちょっと…!
「なにするんですか!…っ!!」
冷たいっ!
湿布独特のつん、とした匂いが漂ってきて、同時に乳首に感じる
冷たい以上のひんやりとした感触。
じわじわと強い刺激が、胸を伝わってくる。
得体の知れない感触に、俺はそれを剥がそうとした。
だけど中嶋さんが俺の手よりも早く、貼り付けられた湿布の上を
指で強く押さえ込んだのだ。
「ああっ…!」
自分でも驚くほどの声を上げてしまう。
なんだよこれ…! 冷たい湿布の上から、中嶋さんの親指が撫でる。
強くされてもいないのに、つんとした刺激が一気に乳首に伝わってきて…
冷たすぎて、痛すぎて感覚がおかしくなってしまったのだろうか。
両方の胸を軽くつままれる。
じん、と何かが…こみあげてくるっ…!
「立ってきたな」
「中嶋さん…っ!」
こんなもの貼られて、なにもならないはずないじゃないか…!
知らない、こんな感触なんて感じたく、ない…!!
「早く、剥がしてくださいっ…」
「駄目だ。今日一日これをつけていろ」
な…っ!?
嘘だろ…!!
「今日は一日ここを立たせているんだ。
ここを立たせながら、俺のことを考えていろ」
「いやです!どうしてこんな…!」
「授業が終わったらここに来い。俺が剥がしてやろう。
その時まで立たせていなかったら…」
「ひ…っ」
手の甲で湿布をそろりと撫でられる。
先がこすれて、甘い刺激が伝わる。
強い刺激の為に、俺の乳首は、湿布の中で固く立ち上がっていた。
「下のかわいい啓太くんにも貼らせてもらう」
鳥肌が立つ。
そんなものを貼られるなんて…絶対に嫌だ!

「授業が始まる。早く行け。」
冷たい声で言われて、俺は屈辱に涙ぐみながらはだけさせられた服を 必死で整えた。
貼り付けられたそれ…をそのままにして。
中嶋さんをにらみつける。
「俺、剥がしますから…!」
あなたのいないところで剥がすことだってできるんだ。
そうだよ、こんな理不尽なこと、されるがままになる必要なんて、ない…!
中嶋さんは俺を見下ろし、口の端だけでにやりと笑った。
「啓太は絶対にそれを剥がさない」
「な…」
「俺にいじってほしくて、必死で我慢してくれるだろう?
オナニーはするなよ。出る量が減るからな」
俺は、耐えられなくなって学生会室を飛び出した…。

信じられない、信じられない…!!
目に熱いものがこみあげてくるのを必死で耐える。
俺は中嶋さんの…一体なんなんだよ?
恋人、っていうわけじゃないけど…だけど、俺は中嶋さんとずっと一緒にいたくて、
中嶋さんも一緒にいてくれて。
だけど、たったあんなこと…で、どうしてこんな恥ずかしいこと
させられなきゃいけないんだよ?

廊下を走っているときに授業が始まるチャイムがなり、
俺は剥がすためトイレに行こうかと悩んだけれど、遅刻するのもいやなので、
そのままで体育館へと走った。
剥がさないわけじゃない、授業が終わったらすぐにとればいいんだから。
中嶋さんがどう言ったって、俺は言うことなんて聞かないんだから…!



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