□幸運ノ重クサリ 1



 放課後の学生会室には、めずらしくいつもの二倍の人がいる。
 ノートパソコンを操作する中嶋さんと、部屋の隅で書類のコピーをとっている俺の他に、人の話を聞く態度には見えない、長くて太い足をどっかと机に投げ出した格好で、隣に座る人物と話をしている王様。この部屋でこの人の姿を見るのは一週間ぶりかもしれない。最後の一人、王様の話し相手になっているのは和希だ。
「やっとひと段落ついたってところか」
「そうですね、秋は行事が多くてこっちも大忙しでしたよ。とにかく学園祭も体育祭も無事に終わって何よりです」
「いい加減敬語はやめろって言ってるだろうが。お前と話してると背中がむず痒くなる」
「どちらの立場であれ、同じように敬語は使いますけど?それに今は後輩じゃなく普段の俺で話してますよ。王様がまだあの時のことを根に持ってるから癇に障るだけじゃないですか」
「……ほんっと食えねえ野郎だ。啓太もよくこんな男とつるんでられるな」
 いきなりコピー機の前でコピーした紙を整えていた俺に王様が大声で話しかけてくるけど、俺は曖昧に笑って「そうですか」と答えるしかない。
 BL学園の理事長とわかった俺の退学事件から、和希は王様にとって中嶋さんと同レベルに苦手な人物になってしまったようだ。事件が解決した後でも、未だに和希が正体を隠して行動する方法をとったことには納得していないらしく。
 だけど、気安く話ができるようになったという意味では距離は縮まったと言えるかもしれない。
「啓太、俺も手伝おうか?」
「ううん、大丈夫だよ。もうすぐ終わるから」
 王様に対して向けられていた大人の余裕を感じさせる凛とした表情が、俺の方を向いたとたん眉と目尻が下がり、いつもの心配性な和希に逆戻りして、俺はついつい吹き出してしまう。理事長だとわかった今でも俺が変わらない態度でいられるのは、この和希のギャップがおかしさと、どちらも素の和希だと知ったからかもしれない。
 椅子が動く音がして、中嶋さんが奥の机から立ち上がり和希の向かいの席に座る。
「……で何だ、俺に用というのは」
 今日和希が学生会室にやってきたのは、俺ではなく、中嶋さんに用があるからだった。
 学生としてでなく、理事長の用事として現れた和希にも、中嶋さんは書類処理の業務を止めようともせず、一時間近く待たせたとは思えない態度で、あからさまに不機嫌な表情で和希を見つめ、こちらも王様に負けない長い足を組む。
 中嶋さんはといえば、あくまで下級生を見下す目つきどころか、更に事件の後の方が和希に対する不遜な態度がひどくなってるような気がする。でも、中嶋さんは興味のない人には無表情、無言、無視の人だから表情が変わるだけまだましなのかもしれない。
「用事があるなら、理事長室に呼び出せばいいだろう」
「呼び出しても来てもらえそうにないので」
「理事長様からの命令となら行かせて頂くが」
 二人とも口もとは微笑んでいるのに目が笑ってないのを見て、先程の考えを改めたくなる。整った顔同士がおたがいの隙を探り合っている様子は背筋が凍る程の迫力だ。コピーをとっくに終えたというのに席に戻れず、書類の枚数を数えるふりをしながら二人を観察してしまう。
「今日は中嶋さんにいい話を持ってきたんですよ。もちろん俺個人からではなく、このBL学園からの提案ですが」
「いちいち一言付け加えなくてもわかってるさ」
「BL学園の姉妹校がアメリカのワシントン州にあることはご存知だと思いますが、今年の交換留学の学生が中嶋さん、あなたに決まりましてね」
 バサバサと大量の紙が俺の足元に散らばり、慌てて「すいません」と叫んでしゃがみこむ。だけど手を動かせずに硬直している俺と同じように、王様もいきなりの話に相当驚いたらしく、机から足を降ろして和希に身を乗り出した。
「ホントかよ!?」
「その前に、理事会での面接を受けてもらって正式に審査することになりますが、面接はあくまで形式みたいなものですし、あなたの事だから失敗することもないでしょう。つまりあなたの意思次第です」
 ゆっくりと言葉を続ける理事長としての和希は、寛容で穏やかな目をしていながらも近寄りがたい雰囲気をまとっている。
「もちろん今ここで決めなくても結構です。来週の月曜日まで一週間、その間に面接を受けるか考えておいて下さい。ご承知かと思いますが、留学期間は半年。中嶋さんにはあちらの高校で卒業して頂きます。その後の進路についてはもちろんBL学園がサポートしますし、そのままアメリカのBL系列の大学に入学する事も可能です。むこうのトップレベルの大学にBLが出資していることはご存知でしょう」
 行くかどうかを考えているのだろうか、長い沈黙のあとに感情のこもらない声で中嶋さんが言った。
「三年の俺が今の時期に留学とはな。……遠藤、お前の差し金か?」
「中嶋さん、あなたがとても優秀な学生だからですよ」
 更なる長い長い沈黙の後に発せられる中嶋さんの言葉を、俯いたまままばたきも忘れて耳を傾け続ける。張り詰めた空気を破り、やがて中嶋さんが発した声は予想外に穏やかなものだった。
「……悪い話じゃないな」
「おい、本気かよ……」
 右手で顎を軽く掴み、空を見つめて考えこむしぐさは中嶋さんが本当に興味が沸いたときに見せるものだ。
 その表情は留学によっていやがおうにも変更せざるを得ない自分の未来を想像し、現状での未来と比べても見劣りしないどころか、中嶋さんの興味を沸かせるものなんだろう、眼鏡の奥の切れ長の目に楽しげな光が宿っている。
「そう言ってくれると思っていました。とりあえず一週間待ちます、その時に改めてあなたの意志を聞かせて下さい」
 和希が満足げに深く息を吐いて肩を落とし、やがて椅子から立ち上がった時には既にいつもの和やかな後輩の姿に戻っていた。
「じゃあ俺はこれで。啓太はまた手伝っていくのか?」
「……え? あ、うん……もう少しいるよ」
 振り返って俺を見る和希に思わず条件反射でそう答えたのは、まだ硬直した状態から解けず何も考えることができないからだ。和希が部屋を出て行き王様と中嶋さんが話し始めてから、俺はやっと散らばった紙を拾い集める。
 先程の会話を反芻しても、しばらく事態を理解することができなかった。
 中嶋さんがどこに行くって?半年ってなんだよ。どういうことなんだ。
「行くつもりなのかよ、お前」
 身体を乗り出して斜め前に座る中嶋さんに王様が問いかける。
「……どうだかな。あの男の言うなりになるのは癪に障るが、話が嘘というわけでもないようだしな」
「行きたいって顔に書いてあるぜ。そりゃあまあ、おいしい話には違いねえ。でも俺としては学生会を放って行かれるのも困るんだが」
「お前の代わりに仕事するやつがいなくなるからだろう」
「まあ、簡単に言うとそうだ」
 満面の笑みで告げる王様に中嶋さんも口の片端を上げて、俺の前では見せないうちとけた顔を見せる。拾い集めた紙を両手で抱えて二人のいる場所に近づくと、気付いた王様が笑いかける。
「お、啓太コピー終わったのか。えらく長かったな」
「はい、ちょっと紙落としちゃって……」
 中嶋さんの顔が見えないよう、中嶋さんの横の席をふたつ飛ばして座り、コピーしてきた紙を整理し始めている間も、王様と中嶋さん楽しげな会話は続いている。
「卒業もむこうでだって?副会長がいない卒業式は寂しくなるかもな」
「心にもないことを言うな」
 中嶋さんは俺が横にいることも、俺がどんな顔をしているかも全く興味がない様子だ。
「あっちで卒業したあとそのまま大学に通わせてもらえるなら、話に乗った方が得策だろう」
「お前一人で受験勉強から逃れられるなんて卑怯だな……」
「受験勉強などしてもいないくせによく言う」
 俺のようなお世辞にも頭がいいとは言えない学生には次元の違う話なのは、散々二人と一緒にいるから今さら卑屈にもならないけれど、それよりも中嶋さんの言葉がもう留学する決心をしているものばかりで、まるで二三日の旅行に出かけるような口調に次第に胸が苦しくなってくる。
 中嶋さんは、人の為に自分の意思を曲げることを絶対にしないのはわかってる。
「……啓太?」
 手を止めて俯いている俺に王様が話しかけてきて、慌てて返事をすると二人がいつの間にか俺を見つめている。
「どうしたんだ、さっきからボーっとして」
「あ、すみません……」
「な、啓太。副会長がいなくなっても学生会の仕事を続けてくれるか?今まで以上に負担が大きくなると思う、それでもよければこれからもいてくれないかと思ってる」
「この男も真面目になってくれるそうだ。……俺がいてもそうであってほしかったがな」
 溜息をつきながらも、中嶋さんの表情は柔らかい。
 もうそんな話になっているのが信じられない。どうして王様はひきとめようともしないんだよ。それでも友達って言えるのか。中嶋さんの進もうとする道に一切口出ししないのは王様らしいってそんなことわかってるのに、それを理解できない自分を止められない。次第に胸の痛みは怒りにすり替わっていく。
「……まだ留学が決まったわけじゃないですから。その時になったら考えてみます。それでいいですか、王様」
「お、おお」
 口から出てきたのはきつく低い声で、王様だけでなく自分でも驚いた。
 ダメだ、ここにこれ以上いたら王様がいるのに中嶋さんに詰め寄ってしまいそうだ。その前にここから立ち去らなきゃいけない、俺は散らかした書類もそのままに立ち上がり、鞄をひっ掴むと二人を振り向かないままに「お先に失礼します」と告げて学生会室を出た。


 ”中嶋さんがいなくなるかもしれない”
 この学園から姿を消すことが、どうしても現実だと思えなくて、どうなってしまうのか具体的に想像しようとしてもそのとたん思考が真っ白になってしまい、その度に寮へと戻る足が止まっている。
 何を想像すればいいんだ。中嶋さんがいない学園のことなのか。それとも取り残された俺のことなのか。自分がどうやって生活しているのか、どうしてこんなに何も出てこないんだろう。
 心が、それ以上考えることを拒否しているからなのか。
 道を覚えている足は自然に寮のドアを開けて、食堂の賑やかさに引き寄せられて入っていくと、和希がすぐに俺を見つけて手招きしてくる。和希の正面に座ったまま食事を取りに行かない俺に何か聞いてきて、ぼうっとしたまま何度か頷くと和希がプレートに夕食をのせて戻ってくる。
「どうした?食べないのか?」
「……ううん。ありがとう」
 嬉しそうに話しかけてくる和希の声がどこか遠いところか聞こえてくるようで、適当に頷きながらただ口に食べ物を運んでいると、「留学」という言葉が聞こえてきて思わず頭を上げる。
「どうだった?やる気ありそうだったか?」
「……え?」
「だから中嶋さんだよ。ここの交換留学制度はなにからなにまで至れり尽くせりだからな。きっと満足してもらえると思うんだ」
 悪気のないにこやかな笑顔で言われて、和希にまで怒りをぶつけてしまいそうだ。和希だったら留学の話を止められたんじゃないかって、思わず口から出てしまいそうになる。
 和希から止めるように理事会でも何でも説得してほしい。和希ならできるかもしれない。俺が必死で土下座して、懇願すれば叶うかもしれない。
 そう思った直後にその思いを振り払う。それは絶対にできない、やさしい和希を利用するなんて最低だ。友達としての関係が崩れるだけじゃなく、俺が中嶋さんを好きだってことまでばれてしまうんだ。
「……なあ和希、留学って一人しか行けないのか?」
 黙ったままの俺を、食べながらもいぶかしげに見つめている和希を見据えると、箸を持つ手をしばし止めて考え込む。
「んー……まあ一応規定では一年に一人と決まってたかな。なんでそんなこと聞くんだ?」
「俺も立候補しちゃダメか?」
 う、と喉をつまらせそうになった和希からの返事をじっと待っていると、目を丸くして見つめられる。
「な、なに、啓太も行きたかったのか?」
「行きたいって言えば行かせてもらえる?」
「うーん……、理事会が毎年生徒を指名することになってるからなあ。生徒からの希望を募るとさ、皆何かの才能に恵まれているから選考に苦労するんだ。だから前例がないっていうか……」
 口ごもる和希に俺は冗談だと笑う。
「冗談だよ。俺が選考から漏れるのは当然だし、中嶋さんが行くべきだと俺も思うもん」
「それは違うぞ、啓太。お前は俺が……」
 その時、和希の背中ごしに見える食堂の入り口から中嶋さんが入ってくるのを見つけて息を呑んだ。中嶋さんはすぐ数人の三年生の席に招かれて五列ほどむこうに俺に背中を向けて座る。形のよい後頭部と広い背中を見つめていると目の奥に苦いものがこみ上げてきて視線を逸らした。
「……イヤなのか?中嶋さんが留学すること」
「え?」
 俺の視線の先を追ったんだろう、和希は神妙な面持ちで聞いてきて俺は慌てて笑い返す。
「そ、そんなことないよ。だってすごくいい話だし、それに俺がとやかく言うことじゃないじゃないか」
「まあそうだけどさ。中嶋さんが断る理由なんて見当たらないし、俺たちが口出しできる問題じゃないしな」
 何気なく言った言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
 中嶋さんが断る理由なんてない――
 しばらくすると中嶋さんが席を立つのが見えて、俺も殆どのおかずを残したままプレートを片付けて、一足先に和希に別れを告げ食堂を出た。


 ドアが開くと、制服の白シャツの姿の中嶋さんがタバコを咥えたまま俺を見下ろす。俺が中嶋さんの部屋を訪問するのはいつもの事なので、中嶋さんはそのまま無言で部屋の中に戻り、俺も下履きを脱いで部屋に上がりこむ。フローリングの床に置かれた小さめのローテーブルにはには中嶋さんが好んで飲んでいるお酒とガラスのグラスがひとつ、そして灰皿と。高校生の寮なのにしっくりと中嶋さんの部屋に溶け込んでいる。
 俺は何も言わず、ローテーブルの前に膝を立てて座り込む。
「浮かない顔だな」
 いつもと同じ口調で俺の正面で方膝を立てて座る中嶋さんは、本当に何もわかっていないんだろうか。俺がどうして浮かない顔をしているのか、本気で聞きたいと思っているのだろうか。中嶋さんの言葉を待つべきか、俺から切り出すべきかしばし悩み、もう時間がないと後者を選んだけれど、中嶋さんの顔を見ながら言うことはできず、俯いたまま尋ねてみる。
「……行くつもり、なんですか?」
「留学のことか? そうだな、前向きには考えている」
「……そう、ですか」
 あっさりと答えられて拍子抜けしてしまう。王様に対しても、俺に対しても全く変わらない態度で答えられて、それ以上言葉が続かない。中嶋さんがタバコの灰を灰皿に落としながら口を開く。
「丁度むこうの法律について突っ込んで調べてみたいと思っていたからな。丁度いい機会だし、学生会の仕事にも追われず勉強に励んでいられる」
 中嶋さんにとって、本当にまたとないチャンスなんだろう。理性だけで留学が自分にとって得になると判断したんだし、それは百パーセント正しいと俺も思う。間違った選択などこの人にはありえないんだ。
「なんだ、うるさい男がいなくなってせいせいしたか?」
 ――本気で?
 本気でそんなことを言うのか、この人は。
 叫びそうな自分を寸前で引き止めたのは、中嶋さんとつきあっていると思い切れない、自信のないちっぽけな自分の理性だ。そして、俺が何を言っても、泣いて懇願しても絶対に引き止められないだろうという確信だ。
「啓太も卒業したら来ればいい、そんなに遠い場所でもないしな」
 ぶつけられない怒りをこらえている間に、またもあっさりと俺が聞きたかった答えを口にして思わず顔を上げて中嶋さんを見つめる。変わらない冷たい瞳には変化がない。俺と関係していてもいいと、遠まわしのその言葉は本気で言っているんだろう。
 そこで俺は初めて理解した。アメリカと日本との距離も、離れている間の時間も、二人の関係についても、中嶋さんと俺の考える距離感がまるで違うんだ。
 価値観が天と地ほどに離れている中嶋さんに俺の気持ちをどう伝えても無駄なんだ。
 突然ばかばかしくなって、俺は酒が注がれた中嶋さんのグラスを掴んで一気に飲み干す。
「おい、啓太」
 苦さに顔をしかめながら、空になったそれにまた酒をついで飲み続けている俺を少しだけ目を見開いて見つめている中嶋さんは、本当に何も理解していないようだった。
 一分もしないうちに、焼けるような喉の熱さが脳に伝わってきて、ぐらりと視界が歪む。何か考えようとしても脳の周囲が麻痺して中心にまで届かないような感覚。今だけでも忘れたいという希望が叶えられて更に飲み続ける。
「弱いからって飲まないんじゃなかったのか」
「そんなこと、言ってません」
 目が次第にすわってきても、中嶋さんは興味深そうな面持ちで俺を見つめたまま止めようともせず、もう一つグラスを持ってくると一緒に飲み始める。お酒が入った中嶋さんは冷たい雰囲気がほんの少し熱っぽく緩んで、低くかすれた声でたくさん話すようになるから、お酒の相手はできないけれど、うれしくて俺も同じようにテンションが高くなってしまう。
 でも今は中嶋さんを楽しんでいる余裕もなくして、早く酔ってしまえばいいと必死だった。
「……未練は、ないんですか? BL学園とか、友達とか……」
「ないと言えば嘘になるが、一生の別れでもないからな」
「一生、会えなくなるかもしれないじゃないですか。王様とか、女王様とか、友達とか……」
「どこにいても会えなくなればその時だ。運命ってやつじゃないか」
「そうですけど……、そうですけ、ど……」
 俺のことをどう思っているのか聞きだしたい、今酔いにまかせて言ってしまえばいい。だけど寸前で酔うことのない冷めた理性が邪魔をする。核心を言い出せないまま、まわりくどい俺の言葉は続けられる。
「BL学園が、つまらないんですか……、だから留学したい、とか」
 俺の質問が意外だったのか、少し驚いたようだ。
「……つまらんと思ったことはない、が」
 空を見つめて、一旦言葉をおいたあと言葉を続ける。
「ほんとうはそうなのかもしれないな。何か刺激がほしいと思っていたのかもしれない」
 ぐらりと視界が揺れて、気付けば中嶋さんが横に倒れそうになった俺の腕を掴んでいて、俺は笑いながら中嶋さんの首に両手をまわし抱きついたせいで、二人一緒に床に倒れこんでしまう。
「啓太、おい、啓太」
 身体を横にしたとたん、急激な眠気が襲ってきて視界がぼやけていく。真上から俺を見下ろす中嶋さんが見えなくなっていく。少し心配している中嶋さんがおかしくて、うれしくて俺は笑ってしまう。
 目を閉じて完全に眠ってしまうまで、俺は中嶋さんに話し続けていた。
「ねぇ、わかってるんですか?俺は好きなんです、中嶋さんのことが……ねぇ、聞いてますか?」



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