□湿ったサンドイッチ 3/3□




 王様が緩ませたままのネクタイを取り外し、床に掘り投げる。床の上で放射線を描くそれを見つめていると、いきなり抱きしめられた。
 熱く、中嶋さんよりもふた周り程大きな身体は、俺を完全に覆ってしまう。充満した煙草の匂いが鼻についた。入ってきた時よりも随分収まっているはずなのに、息苦しさはいっそうひどくなってる。
 王様の匂い。中嶋さんとは全く違う、凶暴で、思考を歪ませるような異質な匂い。
 王様に服を脱がされているのに、俺はただ突っ立ってされるがままだ。シャツ一枚にされて、ベッドの上に座らされてもまだ現実感が戻ってこない。
「さっさと来いよ、ヒデ」
 ベッドの向かいの壁に、中嶋さんがもたれていた。煙草を口にし、ただ無言で俺達の様子を見つめていた。
 その目に感情は全く感じられなかった。それが逆に恐ろしくて目が離せなくて、行為に集中することなどできないでいる。
 王様の部屋に上がりこんだ中嶋さんは、王様が言った通り何も言わなかった。責めることも、なじることもしなかった。ただ「いいんだな」とそれだけを口にした。
 その言葉に、僅かだけれどためらいのようなものを感じたのは、気のせいじゃない。
 ――中嶋さんが何故苦しそうなんだよ。どうして俺と目を合わせようとしないんだ。そう問いただしたいのに、包む空気は俺の追求を完全に拒絶してしまってる。
 ブレザーを脱ぎながら王様が中嶋さんに笑いかける。
「お前とするのはひさしぶりだな」
「言うな」
 低い声で王様を制止すると、中嶋さんもブレザーを脱ぎ始めた。ネクタイは緩めるだけにして、ベッドの方に近づいてくる。
 確か、先週もしたんだって、そう王様は言ったはずなのに。どうしてひさしぶりなんだろう。
 スプリングを軋ませて、中嶋さんがベッドの上に乗ってきて、感じた疑問は吹き飛んだ。すぐに縋るようにして抱きついていく。
「……中嶋さん……っ」
 全身を押しつけて、肩に頬を擦りよせる。だけど、大好きな中嶋さんの匂いは、部屋に染みつく煙草のせいで嗅ぎとれない。
「いいんですか……中嶋さん、本当に……」
「お前がそうしたいのなら俺は構わない」
 本当に、本当にそうなのか。
 それなら、どうして中嶋さんは暗い顔をしているんだ。
 王様の言うとおりに動いているように見えるのは、気のせいなのか。
 この二人の関係は、今まで俺が考えていた、見えていたものとは異なっているかもしれない。今まで隠されていた何かが、姿を現し始めている。それが一体なんなのか。どこが、どう違っているのか。
 すぐに王様もベッドの上に乗り、俺の背後に胡座をかいて座り込んだ。
「俺はしばらく鑑賞しとくよ。啓太相手にできるかどうかまだわからねえからな」
 このままやる気が起きなければ、何もしなくて済む。そうなればどんなにいいかわからない。
 だけど、そうなれば俺の決心はすべて無駄に終わってしまう。
 キングサイズのベッドでも、男三人が乗れば空いている箇所など殆どない。スプリングの音も、少し動くだけで抜けてしまうんじゃないかと思うような痛々しい音をたてる。
 いつもと違う匂い。王様の体臭と、苦い煙草の匂い。
 その中に包まれて中嶋さんと抱き合っていても、借りてきた猫のように緊張が解けない。背後から強い視線を感じる。どんな顔をして見ているのか気になってしまう。
 どうやって俺が中嶋さんに触れて、触れられるのか、すべて見られてしまうんだと思うと、いつものように動けるはずがなかった。
 身体が震えていたんだろう、中嶋さんがあやすように背中を撫でてくれる。
「嫌ならやめるか」
 首を横に振ると、大きな手がシャツの中に入ってきて、腰を掴んでくる。大きな手に挟まれるだけで痺れてくる。
「……ぁ……」
 暖かい感触に思わず溜息を漏らしてしまい、慌てて口を噤んだ。
 見られているだけじゃない、聞かれてしまうんだ。その事に気付けば更に恥ずかしさが募ってくる。
 眼鏡を外し、ひんやりとした唇が俺の口を塞いでくる。すぐに舌が入ってきて、濡れた感触に背筋がざわめく。
「……ん、ん……ぅ……っ」
 激しく舌を吸われて、声が上がるまで上顎を舌先で撫でられた。中嶋さんの唾液が流れ込んできて、顎に伝っていくのも構わず、音をたてて唇全体を舐めてくる。
 性器を舐められて、しゃぶられているような感覚。溢れてくる唾液ごと、中嶋さんに吸い取られる。激しいキスに気が遠くなりそうだ。
 幸い、王様に背を向けているおかげで、顔は見られなくてすんだ。だからもっと欲しいとせがんで、舌を突き出してしまう。
「ぁ、ぁ……、――っ」
 シャツごしに乳首を弾かれて仰け反った。いつもよりも乱暴なキスに、そこは完全に芯を持ち立ち上がっている。
 摘んでは、指の腹で扱かれる。その度に塞がれた唇の隙間から声を漏らしてしまう。
 それどころか、下半身を中嶋さんに押しつけ、腰を揺らしてしまう。両手で腰を掴まれ止められて、無意識に動いていたことに気付かされる。
「そんなに押しつけるな、また漏らしたくないだろう」
「だ、だって……っ、ぁ、あ……っ」
 だけど下着越しにアソコを包まれて、強弱をつけて揉みこまれると、我慢などできなかった。中嶋さんの手首を掴んで、大きな手をアソコに自分から押しつける。
「ぁ、なかじ、まさん、中嶋さん……っ」
 唇を求めると、すぐに濡れた唇が被さってきて、うれしくてたまらない。
 自分から下着を下ろそうと指をかけたとき、中嶋さんの手が腕を掴んでそのまま身体を反転させられた。
 驚いて目を見開いた先に、口の端をつり上げ、俺を見つめている王様と目が合った。
 一瞬息が止まる。快感に我を忘れて、王様が見ていることを忘れてしまっていたんだ。
 一気に頭に血が上ってきて目をきつく閉じても、火照った全身を見られているのがわかる。逃げたくても、猫のように両脇の下に手を入れられて動けない。
 王様と中嶋さんの淡々とした会話。現実感がない。
「……ふーん、こいつもやっぱ変わるもんだな」
「やるならさっさとやれ」
 そう急かすなと言いながら、中嶋さんを背もたれにし、広げた足の間にすっぽり収まった俺に顔を寄せてくる。
 はだけられたシャツをかきわけて、覗いた乳首になま暖かい感触が広がった。
「……っ」
 扱かれて立ち上がったそこが、待ちわびた刺激に跳ね上がる。
 胸元に、いつもと違う漆黒の髪が見える。肌に当たる硬い髪の感触。王様が、俺の乳首を舐めているんだ。
 肌に直接触れる王様の感触に、一気に現実に引き戻された。三人でしているんだと、これから二人に俺は抱かれるのだと思い知らされる。
 中嶋さんじゃない人に、舐められているんだ。
 ぞわ、と寒気を感じて逃げ出そうとしたその時、顎を掴まれ横を向かされた。
 中嶋さんにキスされて、一瞬感じた嫌悪が次第に薄らいでいく。多分、俺の様子を察して唇を塞いでくれたんだ。
「や、王様……っ」
 下着を脱がそうとしている手に気付いて、必死に抵抗すると、それをも中嶋さんに止められる。
「……見せてやれ」
 信じられない言葉に、唖然として中嶋さんと見つめていると、耳元でさらに囁いてくる。
「やるからには、楽しむんだ。俺がついてる」
「中嶋、さん……っ、ぁ、あ……!」
 ねっとりとした熱気に、ソコが包まれる。大きな身体が俺の足の間で傅いている。
 アソコが、肉厚の唇の中に消えていた。銜えている王様と目が合った時、俺は小さな悲鳴を上げていた。
「やだ、いや……、王様……!」
 もがけばもがくほど、吸い付いてくる。王様の唾液がソコを濡らし、陰毛や袋にまで滴っていく。舌がカリの部分に絡んできた時には、もう拒絶の言葉を発することもできず、喘ぐことしかできなくなっていた。
「は、ぁ……、あ……っ」
 耳の穴に中嶋さんの舌が入ってきて悲鳴を漏らしてしまう。音を立てて舐められ、かじられながら、アソコを乱暴にしゃぶられる。耳への愛撫と、熱い中嶋さんの身体の熱気。それがダイレクトに下半身に伝わり、王様の舌を跳ね返す。
「やだ、やだ……っ、もう、で、出る、から……っ、離して……っ」
 どちらに言っているのか、自分でもわからなくなる。
 濡れた音で頭の中が一杯になる。
「ぃや、……ひぅ、っ――」
 我慢も制止もできないまま、腰を大きくグラインドさせて射精した。どんどん出てくるそれを、王様が眉をしかめながら飲んでいるのを、白くぼやけた視界の中で見つめ続ける。


 力が抜けた身体を、王様が引き寄せた。王様の太腿の上に跨り、もたれかかる。
 中嶋さんよりも厚みがあって、広い。体温も少し高い気がする。
「す、いません、王様……、ごめんなさい……」
 いくら三人でするからって、好きでもない男の精液なんて、飲みたくなかったはずだ。
 頭を上げて謝る俺を、手の甲で唇を拭いながら王様がきょとんとした目で見返してくる。
「なに泣いてんだ? 俺がやりたかったからいいんだよ。気持ちよかったか?」
 始めて見る、情欲が表に出た表情。それでも、精悍さは失われていない。
 ベッドの上ではいっそう輝きを増すんだろうか。一瞬目を奪われる程、その笑みは魅力的だった。
「ぁ……っ」
 皺だらけになったシャツをはぎ取られ、素裸にされる。双尻を撫でられて息が詰まる。
「いい形の尻だな。ちょっと小さすぎるけどよ」
 王様の目の前で、信じられない程はしたない姿でいるのに、逃げられない。震えてくるのは、怯えからじゃない。
 王様がシャツを脱いで、浅黒い肌を完全に露出する。胸と胸が擦り合わされたとき、思わず上がった声は拒絶からじゃなかった。
「舐めてやれ、啓太」
 背後にいた中嶋さんに言われ、王様の胸に唇を寄せる。中嶋さん程硬くない、だけど肉厚な皮膚。感触は麻のようで、だけどしっとりしている。
 色づいた乳首を舐めて、吸った。テクニックひとつない俺には、逆に何も考えずにした方がいいと中嶋さんに教わった。だから赤ん坊のようにただ音をたてて吸い付き、何度も舐めあげる。
 脇腹からへそに舌を這わせ、スラックスのボタンを外す。ジッパーを下ろしていく。見なくてもそこがどんな状態かはわかった。下着を下げなくても、赤黒い先端が上から頭を覗かせているからだ。
 震える手でジッパーを下げきった途端、ぶるんと外に飛び出してくる。
「ぁ……」
 頬を擦って目の前に現れたソコは、とてつもなく大きく、黒かった。
 中嶋さん以外に、勃起している状態を見るのは初めてだ。陰毛は中嶋さんと同じくらいか少ないくらいで、張り出したカリは中嶋さんの方が大きいけれど、竿の太さが尋常じゃない。少し覗いている袋も、重たくどっしりとしている。
 瞬きも出来ず見つめていると、王様の笑う声に我に返った。
「やれるか?」
「……は、はい……」
 驚いている場合じゃない、王様が俺のを銜えることができたのなら、俺にだって出来るはずだ。
 俺は体勢を整えて王様の股の間で四つん這いになると、一気にソコを銜えこんだ。
 とたん、むせかえる程の熱気と、王様の体臭に包まれる。同じ性器だから、基本的には中嶋さんのに近いけれど、やはり違う。もっと強くて、動物的で、きつい匂い。
「ぅ、ん……っ、ん……、――ん」
 舌を細かく動かしたり、強弱をつけたりすることは出来なかった。太すぎて銜えるだけで精一杯なんだ。上下に扱き、吸うことしかできないから、銜えずに舐めることが主になる。
 だけど、そうすれば目の前でソコを見てしまうことになって、恥ずかしくてうまくできない。しゃぶるのは目を閉じていても出来るけれど、舐めるのは無理だ。
 尿道をつつくと、じわりと苦いものが溢れてくる。それを放って裏筋を走る太い血管を舌で押すと、どんどん先走りが出てきて竿を濡らしていく。大きいと量も多いのだろうか、大量に溢れてくる。
「ぁ、ふ……っ」
 カリだけを口に含み、溢れたそれを吸ったとたん、身体に甘い痺れが走った。もっと出してほしくて、歯をたてながらくびれを扱き、尿道口をやさしく抉る。出てくるそれをすべて舐める。
 無意識に尻を揺らしてしまってるんだろう、時々腹にアソコがあたる。完全に勃起してしまってる。
 中嶋さんのじゃないのに。いつもと違うものなのに。
 だけど、頭の芯がぼんやりしてきて、誰の性器を舐めているのかわからなくなってきた。
「ぃ……っ」
 突然尻を掴まれ、朦朧としていた意識が引き戻される。
 尻を開き、濡れた小さなものが中心にあてがわれる。それと同時に悲鳴を上げていた。
 中嶋さんの舌だ。後ろの孔を舐めているんだ。
 王様のから口を離し、身体を捩る。だけど、尻に食い込んだ指はびくともしない。
「お、お、さま……、やめさせて、王様……っ」
 自分ではどうすることもできず、王様に助けを求めても、楽しそうに俺の尻を見下ろしているだけだ。
「おれ、後ろ、だめ、なんです……っ、ぁ――、ぁ……っ」
 尖らせた舌が入ってくる。襞をかきわけて、奥まで。
 孔全体を唇で覆い、舌を一番奥まで入れたまま、吸ってくる。
「ゃ――、や、あ……っ」
 恥ずかしくて、涙が溢れて頬を伝う。尻がぶるぶると震えて、中嶋さんの舌を締め付けようとする。もっと引き入れようと力が入ってしまう。
 泣きながら喘ぐ俺を見下ろし、王様が笑いかけてくる。
「気持ちよすぎてだめなんだろ。恥ずかしいもんな、ケツ舐められるの。ヒデがやってやるなんて珍しいんだぜ? 大人しくされてろよ」
「や、……ぁ……っ」
「ほら、休んでないで頑張れ」
 唇に先端を押しつけられ、銜えなおす。孔を探る中嶋さんの舌の感触と、王様の性器の感触、匂い。
 声が出せず、自分が呻きながら断続的に射精していることにも気づけない。
「ヒデ、こっちはもういいぜ」
 すぐに孔から舌が抜けていき、俺の唇から王様の性器が離れた。
 へたりこんだ俺を王様が仰向けにして、両側に中嶋さんと王様が横になる。俺を見下ろしてくる二人の視線に挟まれただ怯えていると、二人の手が俺の身体を探り始めた。
 太腿や、胸、脇腹、余すことなく手の平が触れていく。
「ぁ……ぁ……」
 どれが誰の手なのかわからない。心地よくて、手の感触がもっと欲しくて身体を反らせてしまう。
 中嶋さんの顔が近づき、キスされた。熱を帯び湿った感触。夢中で舌を吸ってしまう。
 いつの間にか両足が広げられ、多分中嶋さんの指が孔の中に滑り込んでくる。
「ぁあ……っ」
 唾液で湿ったそこは、すぐに中嶋さんの指に絡みついた。すぐに二本目が入ってきて、腰を揺らして喘いでしまう。
 だけど、指はそれだけじゃ終わらなかった。
 更に太い指が乱暴に入ってきて、中でばらばらに動かされる。驚いて王様を見上げると、その手が俺の下半身に向かっているのを見つけた。
「や、や、……いや、ぁ……、あ……っ」
 どちらかの指が壁を抉ってくる。
 どちらかの指がピストンを繰り返す。
 二人の指が中を抉り、かき混ぜる。二人がかりで拡げられている。両足は二人によって完全に押さえつけられ、微塵も動けない。
「やだぁ……っ、やめて、や――っ」
「駄目だ、今から順番にここに入れるんだから、思いきり拡げておくんだ。切れて痛い思いをするのは啓太なんだぜ」
「う、う……っ、で、でも……っ、ぁ、あ……っ」
 男二人の指を銜えこみ、それどころか尻を振っている自分を見られている。
 二人の指が付け根まで入り込み、止められる。なのに尻は動いてほしいとはしたなく揺らしてしまう。
 そんな俺の醜態を、二人が失笑して見ているのがたまらなく恥ずかしかった。
「ぁ、ぁ……っ、ん、ぁっ」
「どっちを先に入れる、啓太」
 中嶋さんが、低い声で耳元に囁いてくる。それだけで尻が蠢いてしまう。
「ぁ、わか、んな……、は、はや、く……っ、なかじ、まさ……っ、はやく……っ」
 四本の指が一気に抜けて息をつく間もなく、中嶋さんが俺の身体の上に覆い被さり、一気に貫かれた。灼熱のような塊の衝撃に声も出せず、射精しながら軽く意識が飛んだ。
 それでも、容赦もなく中嶋さんは肩に俺の足を抱え上げ、激しく突いてくる。首に手を回したくても力が入らない。ただ揺さぶられ、抉られ続けた。喘ぎがやがて掠れて、すすり泣きしかできなくなってくる。
 ソコが尻から突然抜けて、身体をひっくり返された。
「な、かじま、さん……っ、あ、――っ」
 中嶋さんが座り、背中から抱きかかえられたとたん、真下から突き上げられる。
 そのまま、腰を掴まれて上下に揺らされた。自分の体重でさらに深く埋まり、息が止まりそうになる。
「ぁ、ぁ……っ、あ、あ……っ」
 すぐ正面に、王様が足を拡げて座っていた。
 そそり立つ巨大なモノを自ら掴んで、舌なめずりをしながら俺を見ている。
 底光りするその目に、背筋がざわつく程の恐怖が走る。
 今にも食らい尽くそうとしている、獣が獲物を狙う瞬間に似ていた。それも、片手間に小動物に襲いかかり、いたぶるだけのもの。
 ただ、暇を持て余していただだけ。気まぐれに、楽しむためだけに襲いかかる。
 ――これが、王様の姿なのか。艶を帯びて、全身から色香を発散し誘いながら、目だけは決して笑わない。
 俺が違和感を感じていたのはこれだったのかもしれない。どんなやさしい言葉をかけられても、触れられても、その向こうに見える黒いものが時折覗いて、俺のどこかが警告を発していた。
 獰猛な牙を剥き出しにして、骨までしゃぶりつくされる。
 揺さぶられる俺を見ながら、目を合わせながら自分のモノを扱く。まるで、自分の獲物が一番色付くのを待つように。
「……ぁ――っ」
 王様を見つめながら、後ろから中嶋さんに再奥を何度も擦られる。アソコが再び勃ちあがり、断続的に白いものが混じったものをシーツに飛ばす様を、王様が楽しげに見下ろす。
 自分のアソコが、振り子のように揺れて腹を打つ音と、太い中嶋さんのモノが孔を行き来する濡れた音。中から滲み出たものと、中嶋さんの先走りが溢れ、俺の尻も中嶋さんの陰毛もびしょ濡れになっている。
 すべて見られている。腰を振って、中嶋さんのを銜えこみながら、王様の身体から目が離せなくなっているのを。
「お、うさま……っ、見ないで、……っあ、あ、……っ」
 そう言いながら、さらに先端を濡らしているのも、何もかも。
 王様が近づいてきて、俺の顎に滴った唾液を拭い、味見をするように舐めた。真っ赤な舌が覗いて、思わず喉を鳴らしてしまう。気付いた王様が口の端をつりあげて笑う。
 俺の頭を両手で掴み、王様が唇同士が触れ合う直前まで近づいてくる。熱い息がかかり、きついまなざしは目をそらすのを許さない。息を呑む俺に、小さなな声が囁いてくる。
「……これで、啓太は俺達の仲間だ」
 熱い唇が、初めて俺の唇に触れた。そのまま塞がれ、息が出来ないほどに舌を吸われたとたん、中途半端に垂れ流されていた精液が最後の迸りを放つ。
 思いきり締め付けた孔の一番奥で、熱湯が散らされた。


 孔に埋まっていたモノが抜けて、俺は仰向けになった中嶋さんの上に跨り、四つん這いになる。まだ勃起した状態の中嶋さんのモノに、自分のソレを押しあててしまう体勢だ。
「や、あ……」
 俺の真後ろで、王様が俺の尻を拡げてくる。恥ずかしさに逃げたくても、もう動く力は殆ど残っていない。
「これなら十分やれそうだな」
 満足げに呟くと、ぬるりとしたものが孔の入り口に押しあてられた。
「中嶋さん……っ」
 無意識に呼んでしまったその人が、俺を見上げる。目尻がうっすらと赤くなり、切れ長の目はいっそう鋭さを増している。いつもと殆ど表情は変わらないのに、熱を帯びたその視線だけが、俺の奥底まで覗き込み、貫いてくる。
 見つめているだけで、心臓を鷲掴みにされそうだ。
「ぁ……あ……!」
 熱いものがゆっくりと入ってくる。中嶋さんが、顔を歪める俺を見ている。
 中嶋さんに見られながら、王様に犯されるのだ。
「ぃ……、――っ」
 カリが埋まると、太い竿の部分がじわじわと入ってきた。血管が浮き出た巨大なモノが、壁を押し広げていく。拡げられていく。
 中嶋さんのよりも圧迫感はあるけれど、痛みは殆どなかった。中嶋さんのモノの方が、カリがせり出している分はじめが痛いからだ。それに、中嶋さんの精液や俺のモノで、孔の中は完全に濡れてきっている。
 ずぶ、と音をたてて再奥まで埋まる。中嶋さんより少し長いだけなのに、とてつもなく奥まで入れられたように感じた。それが怖くて声を押し殺していると、王様がゆっくりと動き始める。
 巨大なモノが身体から抜けていき、また緩やかに入ってくる。
「ぅ、あ……」
「ちょっと濡れすぎだな、滑りがよすぎる」
 掻き出す度、尻から液体が零れ、俺の太腿に伝っていく。
「ああっ、……っ、あ……っ、ぁ……」
 カリが抜けるギリギリまで引き出され、また一番奥まで入れるのを何度も繰り返される。
 中が王様の形になじみ、次第に絡みつくように蠢きはじめるのはすぐだった。中嶋さんので散々蹂躙されたそこは、何をされても快感にしか感じなくなっている。
「っあ、っあ、やぁ……、ん……んっ」
 時々リズミカルに揺さぶられ、甘ったるい声が上がり始めるのを王様は聞き逃さない。四つん這いの俺の背中にのしかかり、腕を回して乳首を押しつぶしてくる。形が変わってしまいそうな程、乱暴に胸を揉んでくる。
「ぁ――、……あ、あっ」
「もっと気持ちよくしてやるよ」
 息を荒げながら、王様が肩越しに囁いてくる。
 すぐに王様の身体に後ろから押されて、中嶋さんの身体の上に倒れ込まされた。中嶋さんのソコに自分のを押しつけてしまい、避けようと思っても、王様がさらにのしかかってきて身動きがとれない。
 俺の上に乗った王様が、シーツに手を突いて腰を揺らし始める。
「や……や……だ……っ」
 次第にリズムを刻み始める王様の動き合わせて、全身で中嶋さんの身体を擦っていく。あそこが擦り合わされる。
「おう、さま……っ、やめ、やめて……っ」
 得体の知れない快感が恐ろしくて、身体を奮わせながら何度も訴えた。もちろん王様が聞き入れるはずがない。
 三人の身体が完全に重なり合う。
 上から王様が俺を抱いている。振動も何もかも、下にいる中嶋さんに伝わっていく。
「いやだ……ぁ、……あ、……ああ……っ」
 身体ごと押しつぶされ、揉み扱かれる。
 全身を、中嶋さんと王様が擦っていく。擦り潰されていく。
 王様が、更に俺の身体を押さえつけ、体重をかけて揺さぶってくる。乱暴に抜かれ、また入ってくる。
「あぁ……っ、や、あ……っ、あっあっ」
「今どっちが入ったかわかるか? 入れ替わったんだぜ」
「う、嘘、そん、っあ、わ、わから、な……っ」
 んなわけねえだろ、とせせら笑う声にも反応し、身体を揺らしてしまう。中嶋さんと王様の身体に密着しているから、俺がどう感じてしまうのか筒抜けだ。
「こういうのをサンドイッチって言うんだぜ、知ってるか? 俺達がパンで、お前が具だ。こんなに濡れちまったらバターかもしれねえがな」
「う、ひ……っく、あ……っ、あぁ……っ」
 自分が漏らす精液と、尻から溢れ、袋や太腿を濡らす誰のものかわからない液体と、三人分の汗。
 それらすべてにかき混ぜられる。二人の男の肉に挟まれ、転がされる。
 誰のに犯されて、誰に何をされているのか、わからなくなる。
「くせになっちまうのがわかるだろ? 啓太」
「い、――く……っ、ぁ――っ」
「さっきからイきっぱなしだな、ちょっとは遠慮しろよ。俺はまだ一度も出してねえんだぜ」
 尻が壊れそうな程腰を打ちつけられて泣き叫べば、もっと泣けと首筋に噛みつかれる。
「あ、ひ……――、……っ、あっ……、い……っ、」
 中嶋さんも、乱暴に腰を突き上げてくる。俺のソコを擦り、下腹部を押してくる。濡らされる。
 中嶋さんにも動かれてしまえば、もうひとたまりもなかった。
「あ――っ、あ――っ」
 殆ど半狂乱になって、泣きじゃくりながら何度も射精し続ける。中嶋さんの腹や胸に散らしているうちに、次第に意識が遠のいていく。
「ぁ……ぁ……――」
 くり抜かれ、開ききった孔の奥で、王様の呻く声と共に熱いものが広がっていくのを感じながら。
 俺は完全に意識を飛ばしていた。


 ――小さな話し声と、鼻につく匂い。
 身体を動かそうにも全身が痛い。立ち上がる気力も残っていなくて、すぐに諦めて耳を済ましてみる。 
「本当にかわいいな。お前の事となれば必死だ」
 意識をはっきりさせたのは、王様の煙草の匂いだ。
 ぼんやりと、数日前の記憶が甦ってくる。
 中嶋さんとの行為が見つかってから始めて王様と会ったとき、学生会室で中嶋さんは何て言っていただろう。『あいつは、俺といる時にだけ煙草を吸うんだ』、確かそう言った。
 ――嘘だ。
 王様は中嶋さんよりももっと頻繁に煙草を吸っている。日常的に。匂いが身体に完全に染みつくぐらいに。
 どうして、あんな嘘をついたんだろう。
「……これで気が済んだか。今日限り、啓太には二度と関わるな」
「わかってるよ、一度やれたらもう興味ねえしな」
 低く、こもるような声は、一番聞き慣れた人のものだ。それに対して、楽しげに答えているのは王様に聞こえる。
「……なあ、本当にこいつ一人に決めちまうのか? 勿体ねえよ。やっぱりお前とやるのが一番楽なんだ。また前みたいにつるもうぜ」
「その話は二度としないという約束だろう」
「そんな事、言った覚えはねえけどな」
「……何を企んでる」
 しばらくの沈黙の後、中嶋さんが地を這うような声を発して驚く。ここまで冷たい声を、今まで聞いたことがなかった。
 どうしてもその顔が見たくて、思い瞼を持ち上げる。
 ぼやけた視界の先には、やはり中嶋さんと王様がいた。だけど、中嶋さんはベッドに横たわる俺に背を向けていて、顔が見えない。
「なーんも企んでねえよ。俺はやりたいようにやってるだけだ」
 肩をすくめる王様は、俺の方を向いているからよく見える。
 ふと、目を見開いている俺と視線がぶつかった。俺が起きた事にすぐに気付いたらしい。一瞬楽しげに目を細めて、何も言わずにまた中嶋さんに視線を戻す。
 それだけなのに、俺は全く動けなくなっていた。身体が震えはじめ、冷たくなっていくのがわかった。
 ――見間違いじゃなかったんだ。
 冷たく、見下すような。人ではない物を見る目つき。中嶋さんに抱かれていた時に交わした、あの蔑んだ目と同じだった。
 底光りするその目だけが、全く笑っていない。意志が見えない。
 ――ただ、暇を持て余していただだけ。気まぐれに、楽しむためだけに襲いかかる。
 王様が俺に語った、セックス狂だという中嶋さんの本性。本当は、誰の事を言っていたんだ。
 王様は何も言わず、唇に笑みを貼り付けたまま話を続ける。
「お前が俺の所に戻ってくる方法なんて、いくらでも作れるってことだ。今日みたいにな」
 俺は、大きな間違いを犯しているんじゃないだろうか。
 王様に俺達の秘密を握られたこと。俺が中嶋さんではなく、王様を信じたこと。
 そこから何かが歪んできていたのか。
 それとも、俺達は王様の気まぐれな遊びに加わっただけなのか。
 残酷な、氷のような目。なのに声だけはいつもと同じように、明るく中嶋さんに話しかける。
「俺を怖がっている限り、お前は負けてるんだよ。あの時のように、また一人づつお前の周りを潰していけば、最後は俺しか残らなくなる。その時は言うことを聞くしかなくなるんだ。……ヒデ、お前は俺から離れられない、永久にな」
 中嶋さんの掴んだ煙草から、灰が床に落ちた。
「……貴様は狂ってる」
 ――何が嘘で、どれが本当なんだ。
 わかっているのは、もう、逃げられないということ。
 王様の罠に捕まった。
 そして、中嶋さんはずっと前から、縛り付けられている。
 もう、目を開けたくない。
 次に目を開けたその先の新しい世界は、確実に俺達を壊していくのだ。
 中嶋さんの背にずっと守られていたものはすべて崩れ去った。何もかも暴かれた今、明日からの俺達が何を見つけるのか、俺にはまだ何もわからなかった。






END