□学園ポルノ□



「……暇だな」
 キーボードを乱暴に叩きながら、眉をしかめて中嶋さんが呟いた。
 もちろん、仕事がないわけじゃない。今も中嶋さんはパソコンに向かっているから作業はしている。だけど急ぎでも大量でもなく、書類の内容をパソコンに打ち込んでいくという頭を使わないものらしく面白みがないらしい。いつもなら俺がするような仕事内容だ。だけど他にこれといった仕事がないので、中嶋さん自ら打ち込んでいる。
 すなわち、今日の俺の仕事はゼロ。ただ中嶋さんの斜め正面の机に座り、意味もなく積まれた書類を見たりお菓子を食べたり過ごしてる。
 当然、王様は来るわけがないので放課後の学生会室は二人きり。
「お前は仕事ないんだろう、帰らないのか?」
 つっけんどんに言われて俺は「ええ、まあ」と曖昧に返事をする。
 ――わからないのかな、中嶋さん。
 別に手を休めたって十分間に合うような仕事なのに、中嶋さんの手は止まらない。俺の方も見ようとしない。端正な横顔を見ているといらいらするような、もどかしい気持ちになる。
 仕事がなくてもここに来る理由なんて、ひとつしかないじゃないか。
 暇だったら学生会室にいないで、少し外に出てみるとか、部屋でのんびりするとか、たまには放課後のデートみたいなことしてみたいよ。
 中嶋さんが俺の為に時間を割いてくれることなんて滅多にない。そもそもそういう思考回路が存在しない。
 仕方ないので、今日も勝手に中嶋さんを堪能することにする。仕事がない時間は、中嶋さんを見つめて過ごす。ただ見ているだけでも、あっという間に時間が過ぎてしまうんだ。
 パソコンを見つめる切れ長の目。まばたきの度に揺れる睫毛は意外な程長い。
 左足を組むことが多いこと、話が切り替わる時に眼鏡を上げるしぐさをする時が多いこと。見つめてているといろんな発見があるから全く飽きない。常にぴんと伸びた背筋は、すらりと高い中嶋さんをいっそう大きく見せる。
 骨ばった長い指がどんな動きでキーボードを叩き、ペンを持ち、携帯を掴むのか。小さな動きひとつひとつが中嶋さんらしさをかたち作っていく。
 かっこいいを通り越して、ただ綺麗だと思う。時々俺にとんでもなくいやらしくする人だと、されている本人が忘れてしまうぐらい、普段の中嶋さんはいかがわしさを一切現さない。冷静で沈着、毒舌で冷淡、それ以外のものが潜んでいるなんて想像もつかないだろう。
「啓太、その紙を取ってくれるか」
「え、どれですか?」
 中嶋さんがいつの間にか俺の方を見ている。急いで机の上に散乱した書類からそれらしきものを探しだし、中嶋さん側の机にあるそれに手を伸ばしたとき、「自分でとる」と中嶋さんの手が同じ書類に伸び、手と手が触れた。
 突然の感触に、俺は小さく叫んで思わず手をひっこめてしまう。
 不審に思われるのは当然で、中嶋さんが頭を上げて俺の顔を見た。目を合わせられず俯いている間も、ずっと視線が注がれているのがわかる。あんまり見つめてくるものだから、顔が次第に赤くなってくる。それも当然見られてると思うと更に止まらない。
 別に恥ずかしがることはない、手が触れただけなんだ。突然だったからちょっと驚いただけだ。
 だけど、今の行動で俺が今何を考えていたのかばれてしまったはずだ。
 パソコンのキーボードの音が復活する。そっと頭を上げると、再び中嶋さんの視線はパソコンに注がれていてほっと息をつく。
「啓太」
「ははいっ」
 絶妙のタイミングで声をかけられ、身体も声も上擦った。
「暇なついでだ、このソフトの使い方を教えてやる」
 手招きされて立ち上がり、椅子を持参して中嶋さんの横に座ると、そこじゃ見えないと更に中嶋さんに近づくよう指示される。パソコンの前に二人くっついて座る状態だ。
 左肩が中嶋さんの右肩に触れて、身体を引いていそうになる。焦りがなんとか表面に出ないよう繕いながら、俺は中嶋さんの淡々とした説明を聞きつつ画面に集中しようとする。
 でも、駄目だ。至近距離から低い声が聞こえて、さっきまで見つめていたすらりと伸びた背と広い肩が触れる程近くにある。体温を感じてしまいそうな程近くに。
「……ここでさっき言ったフォルダを開いてみろ」
「はい」
 マウスを離し、俺に掴ませる。緊張しているせいで画面上のカーソルがうまく動かず四苦八苦していると、中嶋さんの手が俺の手ごとマウスを掴んだ。驚いてひっこめようとしても、強く掴まれて抜けない。
 男の俺の手も完全に覆ってしまう大きな手はひんやりとしているのに、俺の手はどんどん熱くなってきて、マウスごと動かされていると頭がくらくらしてくる。
「おい、聞いてるか?」
「へ、あっ、はい」
 手に意識が集中していたせいで、中嶋さんの説明はひとつも頭に入っていなかった。マウスから手を離し、中嶋さんが真横から俺を見てくる。
「……さっきからはいしか言わんが、気分でも悪いのか?」
「いえ、あります、すごくありますっ」
 キッと眉をつりあげて真剣な顔をして答えてみるが、きっと嘘くさく見えてる。
「まあいい、コーヒーを入れてきてくれるか」
「はいっ」
 なんでもない風をうまく装いつつ立ち上がり、室内の端に設置されたコーヒーメーカーのスイッチを入れる。
電源が入ると点くはずの小さなランプが何度押し直しても点かず、接触が悪いのかとコーヒーメーカーを揺らしてみたりすると、左右の棚も揺れて部屋中に騒音が響きわたる。その音を聞きつけて中嶋さんがやってきた。
「すいません、どうやっても電源がつかなくて」
 俺の側に近づき、しゃがみこんでコーヒーメーカーを覗きこむ。二十センチ程近くに中嶋さんの頭があって、身体だって触れてしまってる。後ずされば離れられるのに、綺麗なうなじや耳元に見とれてしまい硬直してしまってる。
「……啓太。コンセントが外れてる」
「えっ、あ、そうなんですか、すいません気付かなくて……っ」
 慌ててしゃがみこみ、コンセントを掴んで棚と棚の間に手を突っ込む。
「うう……ん」
 腕一本がぎりぎり入るかの隙間なので、四つん這いになって頭を棚に押しあてながら、手探りで穴を探し当てて差し込んだ。
「は、入りました……」
 ズボンについた埃をはたき落として立ち上がり、お湯を注いでいると、頭に手が触れて勢いよく中嶋さんを振り返る。
 見上げると、無表情な中嶋さんが俺の髪を見ていた。
「埃がついてる」
 髪を梳くように長い指が頭を撫でていく。俺は俯いてされるがままになるしかない。どんどん顔に血が上ってくるのがわかるから恥ずかしい。耳たぶに指が触れてきつく目を閉じてしまう。わざとなのか、偶然なのか判断がつかない。
 ぎりぎりのラインだ。
 中嶋さんは俺と戯れようとしているのか、無意識なのか。前者ならこのまま中嶋さんに抱きついてみたり、ほんのちょっと甘えてみても拒絶されないはずだ。後者なら今の距離は離れて一気に状況は悪化する。
 どちらにすればいいのか悩んでいると、中嶋さんの手が離れていく。
 俺はそのまま動けず、中嶋さんの次の行動を待っていたんだけど、ラインは後者に軍配が上がったらしい。
「沸騰してるぞ」
「……え? あ、はい」
 俺を置いて席に戻るため歩き出して、俺は小さくため息をついて肩を落とす。そうそううまい方向にいくわけない。
 すぐにコーヒーを注ぎ、両手にコップを持って席へと戻ろうと振り返ったその時、コーヒーメーカーのコードに足がひっかかった。
「わあっ!」
 前のめりに倒れるのは足を踏ん張って耐えたものの、両手のコーヒーが壮大に跳ねて、俺のズボンの太股を濡らした。
「あ、っつ……!」
 コーヒーはあっという間にズボンの布を通過し太股に侵入してきて、慌ててベルトを外す。その事態に気付いた中嶋さんが戻ってきて、俺の手を押しのけ素早く脱がせてくる。
「わ、……っ」
 それも下着ごと引き落とされて、抵抗する間もなくズボンも下着も足から引き抜かれる。
「大丈夫か」
「は、はい」
 ブレザーとシャツを引っ張り前を隠してどうしていいかわからずにいると、中嶋さんは俺の服をコーヒーメーカーの方に持っていき、コップにお湯を注いでズボンと下着にかけた。
「中嶋さんっ!?」
 驚いて駆け寄ると、既にコーヒーで茶色く染まった部分はもとより、ズボンの大部分が濡れて湯気を出している。もちろんその横にあったしわくちゃの下着もだ。
「なにするんですかっ!」
「こうすればシミにならない」
「ほ、本当ですか……? ってそんなに濡らしたら俺、着る服ないじゃないですか!」
「仕方ないだろう、乾くまでその格好でいろ」
「いくら待ってもそんなに濡らしたら乾きませんよ!」
 下半身は素っ裸、靴下と靴しか履いてない格好でいろっていうのか。こんな恥ずかしい格好でいられるわけがない。布か何か隠せるものを探そうと歩き出すと、腕を掴まれていきなりシャツをたくし上げられる。
「なにす……っ」
「火傷してないか見てるだけだ、じっとしてろ」
 俺の正面で屈み、太股を見る死線を感じて、恥ずかしさに目を閉じる。閉じると更に視線を意識してしまい、みっともなく足は内股で、震えだしてきてる。へそのあたりまで上の服をたくし上げられているから、もちろんそこもすべて丸見えだ。
「ひゃ……っ」
 太股の内側に触られて、泣き声のような声を漏らしてしまう。探るように大きな手が太股を撫でてくる。やめてほしいと言えない。そこが反応しないよう、ヘンな息が漏れないよう、口を噤んで耐えるだけで精一杯だ。
 やっと手を離してくれた時には、俺は荒い息を吐いてしまっていた。
「大丈夫そうだな」
「あ、あ……の……、もう帰っていいですか……?」
「その格好でか?」
「何か、隠すもの借りて……」
「何もないな。それにさっきの仕事の続きがある」


 ――五分後、俺達は先程の状況に戻っていた。
 パソコンの前に中嶋さんが座り、その右横に俺が座っている。
 ひとつだけ違うのは、俺がズボンを履いてないってことだ。ついでに下着も。
「違う、そこじゃない」
 さっきから何度も怒られてる。そんなこと言っても、椅子のひんやりとした感触が直に尻に当たっている状態で、中嶋さんの横に座り、パソコン講習を受けるなんてできるわけがない。幸い前はシャツとブレザーで隠れてはいるけど、それもぎりぎりで今にもめくりあがりそうだ。
「こっちに座ってやってみろ、啓太」
 中嶋さんが立ち上がりパソコンの正面の椅子に座るよう促すので、渋々前を隠しながら前屈みになって移動する。
「……っ」
 座ったとたん、俺は目を閉じて縮こまってしまった。
 中嶋さんの体温で暖められた椅子。尻や太股の裏に熱が伝わってくる。まるで中嶋さんの身体の上に乗せられたような錯覚に陥って、一気に体温が上がる。
 このままでいるときっと後戻りができなくなる。絶対ばれる。
「あの、座らなくていいです」
 耐えきれずに立ち上がり中嶋さんを見ずに言った。シャツを掴むより先にいきなり中嶋さんの左手が伸びてきて、あっという間にめくりあげられる。
「な、なにする……っ」
 手を振りほどいて前を隠してももう遅い。中嶋さんは尊大に「フン」と鼻を鳴らすと口の端をつり上げた。芯を固くして、上に持ち上がり始めているモノを見た証拠だ。
「それなら、資料を取りに行ってくれるか」
 何も言ってこないのが逆に恐ろしい。メモにタイトルを書き、それを俺に渡すと椅子に座ってしまい、俺はちょっとかわされた気分になりながら本棚に向かう。
 かわされたって何だよ。何期待してるんだ。
 それにしても下半身に何もつけていない状態で学生会室の中を歩き回るというのは、恥ずかしくてしょうがない。風が直に当たるうえ、シャツが前と尻を擦っていき妙な気持ちになってしまう。ただでさえ少し反応しかかっているから、皮膚が更に敏感になっている。
 駄目だ、意識を集中して仕事しなければ。
「ええと……」
 メモのタイトルを探し、見つけた場所は一番上の棚だ。頭より上の高さにあるうえ、片手ではとれない大きさの本だった。つま先立ちで両手を伸ばしてみるけど、本がびっしり詰まっていることもあって取り出せない。
 指をひっかけては引っ張ってみることを繰り返していると、視線を感じるような気がして横を見た。
 五メートルほど向こう。
 左足を組み、机に肘をついて、口の端を僅かに上げて真っ直ぐに。
 ――中嶋さんがこちらを見ていた。
 言葉を失い、ただその姿を見つめていると、中嶋さんが切れ長の目を細めて言った。
「遠くから見ると、案外綺麗な足だな」
 言われた言葉の内容を頭の中で反芻したとたん、一気に頭に血が上ってくる。
 慌ててシャツを両手で下にひっぱり下ろしてももう遅い。気付いてしまった。俺はつま先立ちをしている間、ブレザーとシャツが上がってすべてさらけ出していたのだ。それを中嶋さんはずっと見ていたのだ。
 恥ずかしくて、中嶋さんが見れない。なのに中嶋さんはこっちをずっと見てる。見ないで下さい言いたいのに、言葉がつまって出てこない。シャツを握りしめた手が震えてくる。
 ぐんと力を増してくる。俺の気持と反比例して、あそこが頭をもたげてくる。
 俺はなんとかメモをもう一度見て、違う本を探すことにする。もう一度棚の上の本を取り出す勇気はない。
 次の本の場所を探しても見あたらずうろうろしていると、中嶋さんがそこにはないと言ってくる。
「今頭の上にあるダンボールの中だ」
 見上げると、棚と天井との間を埋めるようにダンボールがはさまっていた。手を伸ばして届く場所じゃない。振り返って中嶋さんを見ると、いじわるそうに見つめているだけで断れる雰囲気じゃない。
 机に戻り、椅子を取り出してダンボールの下に置く。靴のままその椅子の上に上ると、両手でつかめる高さになってくれたけど俺はそれ以上動けなかった。
 椅子の上に上ったということは、下から見えているんじゃないだろうか。
 恐る恐る中嶋さんを見ると、俺の予想は当たっているみたいだった。先程と同じ姿勢で、俺を見上げている。その視線は俺の下半身に注がれているんだ。
 シャツを突き上げるぐらいに立ち上がったモノを、下から覗いている。尻も、足も全部見えてる。
 見ないでほしい。視線に晒された下半身すべてが熱を持ってくる。
 それでも俺はダンボールに手を伸ばし、棚から取り出した。ダンボールが想像以上に重く感じるのは力が入らないせいだろう。胸のあたりまで下ろしたとき、溢れる程入っていた中身がバラバラと下に落ちる。
 急いで椅子から降りてダンボールを下ろすと、落ちたものを拾っていく。黄ばんだ書類の束や、汚れた筆記用具。その一つが本棚の下の床との隙間に入り込んでしまい、俺はしゃがみこんで手を入れる。
 手に当たって更に奥に行ってしまい、俺は床に頬が当たるほどしゃがみこむ。
 どうしても取れず意地になっていると、背後で噴き出すような吐息が聞こえた。上半身を上げて振り返ると、中嶋さんが笑みを浮かべている。その笑顔があまりにも楽しげなので頭を傾げる。
 ぺらりとシャツが尻に触れた。
 まさか。
 まくり上がっていたシャツが下りたということは、しゃがみこみ、四つん這いになったということは。
 しかも、中嶋さんは今俺の真後ろにいる。
「……っ」
 丸見えだった。後ろから見られていた。気付かなかった。
 急いで立ち上がろうとすると、中嶋さんが笑いをこらえながら言う。
「ちゃんと取れよ。入ったのは多分一番大事な書類だった」
 嘘だ。ただの汚いメモの束だったはずだ。嫌だと首を振っても中嶋さんは許してくれない。残酷な笑みを浮かべたままだ。
「今みたいに尻を振って取れよ」
 その一言で、やはり中嶋さんは俺をからかう為に見ていた事を知ってしまう。
 全身から汗が噴き出したんじゃないかと思うほど、一気に体温が上がる。
 もう一度肘をつき、頭を下げる。
 早く取りたい。早く。
 早く取らないと、ずっと中嶋さんが見ているのに。
 今ずっと俺のそこを見てる。きっと袋の裏側まで全部。一番見られたくない後ろの穴まで。
 あの鋭い目でじっと、笑みを浮かべながら。
「ぅん……っ、ん、……っく……」
 俺は嗚咽を漏らして闇雲に手を動かしていた。
 指先を掠める書類がどうしても掴めず、くやしさと恥ずかしさがごちゃまぜになって、どうしたらわからなくなっていた。腕が棚の角に当たる痛みも痺れに変わってきてる。
 突き刺さるほどの視線から逃れたい。見て欲しくない。
 どうすればいいのかわからない。逃げたいのに、逃げ出せない。
 なのに腰の下が痺れて、反対の動きをしそうになってしまう。突き出して、中嶋さんの視線にもっと晒されたいみたいに、いやらしくくねらせてしまう。見られていない乳首も固くしこって、シャツを擦れる度じんと痺れる。
 身体を動かした拍子に、指先が書類を弾き、更に奥深く、届かない場所に行ってしまった。
 俺は半べそになって起きあがり、床に尻をつけてへたりこんだ。完全に勃起し、先端を濡らしているのが見える。シャツから覗くそれはもう隠せなくなっている。
「と、取れな、い……です……っ ぅ、……っ」
 俯いて首を横に振り、もうできないと懇願する。殆ど涙声になってしまってた。
「も、や、やだ……っ」
 中嶋さんは何も言わない。椅子に座ったまま俺をおかしそうに見つめているだけだ。だけど、何も言わないことが許しのように思えて、俺はよろめきながら立ち上がり、中嶋さんの方に近寄っていく。
 しがみつけば触れてくれるだろうか。抱いてくれるだろうか。興奮しきった身体と頭は、もう中嶋さんに触れられることしか考えられなくなってる。
 だけど、中嶋さんは淡々と俺に命令する。
「もう一度コーヒーを入れてきてくれるか。結局飲めなかったからな。俺とお前の分だ」
 俺は小さく頷いて従った。言うことを聞けば触れてくれると思ったからだ。
 部屋の端まで歩いていくのは想像以上の苦痛だった。重苦しい下半身が邪魔をしてうまく歩けないし、なにより勃起しているのが丸見えの状態で学生会室を歩いていることがたまらなく恥ずかしい。汗で尻や太股が湿ってくる。
 震える手でなんとかコーヒーを注ぎ、両手にカップを持って戻ると、真正面で俺を待つ中嶋さんの視線は俺の下半身に注がれていた。隠したくても、両手が塞がっているせいで叶わない。
 心臓が爆発しそうに高鳴ってる。椅子に座る中嶋さんの正面に立つと、いきなりシャツを片手でめくり上げられた。
「やぁっ」
 腰をひっこめた振動でカップの中のコーヒーが数滴床に零れる。
「裸で歩くのが好きなのか?」
 中嶋さんが、しみじみと俺のそこを眺めながら聞いてくる。
「違います……っ、中嶋さん、中嶋さんが見るから……っ」
「見られるだけでこんなになるのか。尻の穴も開いてたぞ」
「嘘、そ、そんなの嘘、だ……っ」
「指も突っ込まずに開くのはお前ぐらいだろうな」
「違います……! 嘘言わないで下さい……っ」
「嘘?」
 ひどい言われように反論する。中嶋さんが片眉をひねらせて笑った。中嶋さんが立ち上がり、コーヒーを俺から取り上げると、俺を机の上に上るように言ってくる。有無を言わさない雰囲気に、俺は靴を脱いで机の上に片膝をついて上がる。両膝が机の上に乗ったそのとき、後ろから双尻を掴まれ、上へと引き上げられる。
「や、やだっ!」
 尻が持ち上がり、四つん這いよりも恥ずかしい格好にもがいたけど果たせず、更に尻を左右に広げられる。
「いや、いやだぁっ」
 撫でられるだけでも感じる尻を鷲掴みにされ、それだけでも痺れるような快感に襲われているのに、中嶋さんは全く容赦なく中心を覗き込んでくる。何も言わず、吐息がかかるぐらい至近距離でそこを見てる。
「ぃやあ……!」
 痛い程の視線を感じて、無意識に俺は尻を揺さぶっていた。視線から逃れたいはずなのに、見せつけるような動きをしてしまう。嫌なのに、恥ずかしくて涙が出てくるのに、中が疼いて収縮を繰り返してしまう。
 きっとこのまま中嶋さんの大きいアレが入ってきても、簡単に一番奥まで埋まってしまうだろう。
 ほら、開いてるだろうって言われる。嘲笑される。
身体を竦めていると、そのかわりに襲ったのは中嶋さんの吐息だった。
「あ――」
 中嶋さんが尻の穴に息を吹きかけてきて、俺は机についた手を突っ張らせ、身体を仰け反らせた。前から半透明の液体が飛び散り床に滴る。
 だけど衝撃はそれだけじゃ済まなかった。
 袋の後ろから尻の溝を、中嶋さんの肉厚の舌が舐めあげたのだ。
「あぁ……っ、ああ……っ」
 何度も大きく往復していき、その動きに合わせて俺は断続的に射精する。
 すべて出しきっていないまま中嶋さんは身体を離し、俺に服をすべて脱ぐように命令する。俺は痙攣が治まらない身体で必死になって服を脱ぐと、再び床に立たされた。
 腹につく程立ち上がっているモノから白いのが滴り、床に落ちる。
 胸も、肩も、臍も、何もかも中嶋さんの前に晒している。触れられてもいない乳首が固く立っているのも知られてしまう。再び椅子に座り、正面から俺の全身を舐めるように見る視線。モノを隠す為に少しでも触れれば、自分で最後まで射精するために扱いてしまいそうで出来ない。
 震えている俺に手渡されたのは、再び本のタイトルが何冊も綴られたメモだった。
「なかじ、まさん……っ」
「ちゃんと全部取ってこいよ」
「む、無理です、こんなの……っ! 許して、許して下さい……っ」
 俺の懇願を聞き流し、中嶋さんが手首を動かして俺を追いやる。何度お願いしても聞き入れてもらえない。俺はしゃくりあげながら、メモ掴んで本棚の方に歩き出す。
 何列にもわたる本棚の間を歩き、涙で滲む視界で必死にタイトルを読みながら探す。射精の途中で止められたモノがじくじくと疼き、舐められた尻は中嶋さんの唾液でまだ濡れている。まともに歩くことなどできるわけがない。ゆっくりと刺激しないようにするせいで、のろのろと動くことしかできない。
 素っ裸で、勃起させて無様に歩いている、情けなくて恥ずかしくて涙が止まらない。
 嫌なら飛び出せばいい、中嶋さんを振り切って出ていけばいい。だけどそれはできなかった。
 俺を引き留めるのは、絡みつく中嶋さんの視線だ。その視線があまりにも熱いものだから、逃げ出せない。全身を愛撫されているような錯覚さえする。
 数分かかってやっと一冊目を取り出し、二冊目を探し回る。なかなか見つからなくて苛立ちが募っていく。
長い時間をかけて二冊目を探し出し、三冊目に入る時には我慢はもう限界だった。中嶋さんと目が合い、その瞳の奥の熱を見てしまい、俺はとうとう立ち止まってしまう。
 滴り続けるそこに――俺は手を伸ばしてしまった。
 堰を切ってしまえばもう止まらない。立ったまま本棚に左手をつき、右手で自分のそれをめちゃくちゃに扱く。濡れた音が室内に響き渡るけど、それももう気にならない。
 ――中嶋さんの視線を感じる。
 見て欲しくないのに。
 みっともなく感じている、扱いている自分なんか見て欲しくないのに。
 俺の身体は、見せつけるように中嶋さんの方を向いていた。
「ご、ごめん、なさ……っ、ごめ、なさ……っ」
 泣きじゃくりながら腰を突き出し、俺はあっという間に堰き止められていた精液を出しきった。


「ひっ」
 しゃがみこみ、身体を抱きしめてうずくまっている俺の前に中嶋さんがやってきて、俺は身体を縮こませる。震えている俺の背中に手が置かれ、やさしく撫でられる。
「そんなに怯えるな。すまん、やりすぎたな」
 泣きはらした顔で見上げると、相変わらずいじわるそうだけれど、どこか甘さを含んだ笑みがある。腕時計を見つめてから、俺の腕を掴んで立ち上がらせてくれる。
「いい暇つぶしになった。もういいぞ」
 そう言って俺を離して机に戻ろうとするその広い背中に俺は抱きつく。
「……いや、嫌です……っ、……し、て……して下さい……お願いですから……っ」
 逃げられないようにきつく抱きしめ、制服に頬を擦りよせて訴えていた。
 身体の疼きは、射精してもまだおさまらなかった。後ろの穴が飢えすぎて、感覚がなくなっているみたいに痺れてる。
 俺のせっぱつまった声に、中嶋さんが胸に回した俺の手首を掴んで引き剥がし、ふらつく俺を引っ張っていく。机の上に身体を乗せられて、全裸で仰向けになって中嶋さんの前にいる恥ずかしさに、横を向き足を曲げる。
 そんな俺を置いて中嶋さんは一度離れて、自分のブレザーのボタンを外した。
そのゆっくりとした動作を、息を呑んで見つめる。
 多分、中嶋さんは今から俺を抱いてくれる。そう思うと心臓が高鳴ってくる。ブレザーが椅子にかけられる音にさえ身体が震えてしまう。ネクタイを外す音。そして白いシャツのボタンをいくつか開けて、綺麗な鎖骨を覗かせる。すべての動きに目が離せない。
 ゆっくりと俺に近づいてきて、机の前に立つ。俺の尻の方から見下ろす格好だ。
 恐る恐る目を合わすと、楽しげに目を細められてますます身体が熱くなる。
 俺は、身体を仰向けにし、自分から中嶋さんの方に足を広げた。太股の裏に手を回し、M字に足を開く。中心でそそり立つモノは期待に奮え、中嶋さんの視線を受けてみっともない程ひくつき、臍に汁を零している。
 俺は、中嶋さんが求めているだろう言葉を口にしていた。
「……い、入れて、下さい……っ、ここに、中嶋さんの、を……」
 足を広げたまま、両手で尻を左右に広げる。
 そのすぐそばでズボンのジッパーが下ろされる音に過敏に反応し、そこから引き出されるだろうモノを想像して小さな喘ぎを漏らしてしまう。
 固く丸い先端が押しあてられ身体をびくつかせた瞬間、一気に貫かれる。
「ひっ――――――、っあっあっあっ」
 中嶋さんの言った通りだった。後ろは完全に開ききり、何の抵抗もなく一番奥まで埋め込まれる。それとも、痛みもすべて快感へとすり替わってしまっているのかもしれない。
 乱暴に揺さぶられてすぐに精液が押し出される俺のモノを、中嶋さんが乱暴に掴んで堰き止める。その手を振りほどこうとしても叶わず、そのまま腰を打ちつけられる。
「あっ、あっ、あっ」
 自分から腰を振り、中嶋さんを締め付ける。唾液が頬を伝い涙まで流れるけど、拭っている余裕などない。
 俺のモノを掴む手を離されたかわりに、先端だけを入れたまま止められて、俺は嫌々と首を振る。動いてと訴えても無視されて、自分から腰を動かして奥に埋め込もうとする。
「や、や……うご、動いて……」
 奥が引き込もうと激しく収縮し、太股がひきつる。そんな俺を見下ろして中嶋さんが笑う。
 淫乱だとか、はしたないとか、きっとひどい事を言われるのがわかるから、俺は首を振って言わないでほしいと訴える。
「暇な時はお前で遊ばせてもらうことにするか。時間が過ぎるのも早いしな」
 遊ぶって何だよって、暇だからっていう理由で俺にこんなことをするのかって、抗議したいのに。
 なのに、俺の身体は心を裏切って、遊ばれる期待に熱くなってる。もちろん中嶋さんはそんな俺なんてとっくに気付いてる。
 小さく笑うその振動だけで、泣きそうになる。
「お前の顔は正直だが、ここはもっと素直で笑える」
「なか、じまさん……っ、動いて……ぇっ」
 悲鳴みたいな俺の声に限界を感じ取ったのか、中嶋さんが抽挿を開始する。俺ごと机が揺らされる。
 塞がった場所が揺れて、いやらしい空気が漏れる音と濡れた音が混じる。中嶋さんの先走りで中を濡らされてると思うだけで、俺の中からも何か溢れてきそうで、俺は泣いてよがり狂った。
 中嶋さんになら、俺は何をされてもすべて喜びへと変わる。
 見られるだけで、あんなにも感じてしまう。学生会室で全裸になっても、それがとんでもなくみっともなくたって、それで中嶋さんが楽しいのならうれしいとまで思ってしまってる。
 だって、俺はいつも中嶋さんに相手してほしくて、触れてほしいと思ってるから。
「俺のこと、使って……っ、いっぱい、使って……っ、何されても、いいから……っ」
「いいんじゃなくて、お前がそうしてほしいんだろう」
 深く抉られて、再び射精を始める俺を見下ろし、おかしそうに笑う。
「これから二人きりの時は、お前が素っ裸になるってのはどうだ」
「や……あ、あっ!」
「仕事もセックスもできて一石二鳥だと思わないか?」
「あ、もっ、イく、イく……っ!」
 乱暴に腰を打ち付けられ、カリの一番張りだした場所が一番感じる場所を残酷なまでに強く抉ってくる。最後の絶頂がもう出口寸前にせり上がり、俺は身体を仰け反らせる。
 隠すこともできないまま、俺は大量の精液を宙に放つ。
「あ――、い、ぃ……っ、」
 俺が最も欲しかったものが身体の一番奥深くに与えられて、射精しながらその感触を貪った。
 快感のあまり声はやがて嗚咽になり、いつの間にか視界は真っ白になっていた。


「……なんですか……これ……」
 湯気はもう出ていないけれど、大部分が茶色く染まったズボンをつまみ上げて俺は呆然とする。
 シミが取れるからと熱湯をかけられたコーヒーで汚れたズボンは、コーヒーの色こそ薄くなっているものの、更にシミは広がって一層ひどい状態となっていた。もちろん同じように、下着は白から茶色に変化している。しかも1時間そこらで乾くはずがない。
「……もっとひどくなってるような気がするんですけど……」
「そうか」
「そうかって……、シミにならないって言ったの中嶋さんじゃないですか」
 ズボンを広げ青ざめていると、ソファーに深々を座りタバコを擦っている中嶋さんが言い放つ。
「ああ、口実だからな。適当に言っただけだ」
「……は?」
 言葉を失い、呆然と立ちつくしている俺の前で、満足げにタバコを吸い終わった中嶋さんが立ち上がる。
「それぐらいなら着て帰れるだろうが。行くぞ」
「え、えっ」
 一人部屋を出ていこうとする中嶋さんを慌てて引き留めても振り向きもしない。ドアのノブを掴み、本当に行ってしまうのかと唖然としていると、ふと動きを止めて俺の方を振り返る。
「さっさとしろ、3分待ってやる」
「……えっ!」
 命令された条件反射で、俺は大慌てで濡れたズボンを履き始めた。
 これでいいのかとか、中嶋さんが悪いんじゃないかとか、言いたいことはたくさんあるはずなのに、中嶋さんはうまくその暇を与えない。結局俺は言いくるめられ、丸め込まれるだろう。でも嫌じゃない。
だって、中嶋さんは口実だと言ったから。暇つぶし以外の理由があったって、そう思いたい。いや、そう思いこむことにする。その代償がズボンと下着一着ならたいしたことじゃない。
たまには、自惚れてもいいよな。
次に暇になる日はいつだろうって、俺はまた凝りもせず次の期待に胸を膨らませてしまうのだった。
 
 



END