■下半身の囁きvol,2■



『今そこで脱ぐんだ』
「え……」
『そろそろ疼いてきたころだろう。抜いてやるよ、今ここでな』



「ええっ!?」

言われた言葉が一瞬理解できない。
思わず受話器を落としそうになる。
「あ、あの…え、ええっ?」
抜くって…、中嶋さんと電話をしている、今ここで!?
『理解できたか?だったら早く脱ぐんだ』
「な、中嶋さんっ」
中嶋さんは本気で言っている。
そんな時の中嶋さんに反論することはできないってわかっているんだけど。
有無を言わさない声に逃げ腰になりながら、俺は何度もいやだって訴えた。
だって、こんな…自分の部屋で一人で、そんなことできるはずないじゃないかっ。
俺だけが一方的に話す押し問答を繰り返したけれど、止めてくれるわけもなくて、
俺はくやしまぎれに「嘘をついて脱いだって言いますよ」って脅してみたら、
鼻で笑われた。
そうだよ、俺が中嶋さんの前で嘘なんてつけっこない。
それに…。
口ではいやだって言っているのに、…俺、ちょっとドキドキしてた。
そんな俺を中嶋さんも気が付いている。
だって、今まで俺が本気でいやがったことなんて、ない。
それに、中嶋さんが俺と話をしている間は、つながっていられるんだ。
そう自分でいいわけしてみるけれど、本当は俺の身体も頭の中も、
火照っていた熱を出したくてたまらなくなっていた。
中嶋さんの声を聞いて、スイッチが入ってしまったみたいで。
きっとこのまま電話を置いても、一人でしてしまうだろう。
だったら、俺…中嶋さんの声を聞いていたい。  

俺は、ズキズキと疼くそこを刺激しないよう、ベットの上でゆっくりと
下のズボンを脱いだ。下着は脱がないでいいと言われてほっとする。
だけど…下着の下で固く立ち上がっているものが目の前に露になり、
見ないように目をそらした。
『どれぐらい立っているか言ってみろ』
「………っ」
どうしてこの人は、俺がしたくないことをいきなり聞いてくるんだろう。
「……わかり、ません…」
『わからないなら触ってみるんだ』
いやだ、と言っても許してくれるわけない。
俺はおずおずと下着の上から、空いている右の手のひらで少し触れてみた。
「…っ」
その刺激に身体が跳ねる。
敏感になっていて、固い。
思っていた以上に身体が興奮していることに驚く。
『握ってみろ。下着の上からな』
ひっこめてしまった手をもう一度、こわごわと下着の上から、
なるべく刺激しないよう、そうっと握ってみた。
思わず声が出そうになり、慌てて口をつぐむ。
待ち望んでいた刺激に、鳥肌が立っていた。
快感に全身が震える。
『どれくらいだ?』
「あ…、わ、わから…ない…」
驚くぐらい自分の声が震えてる。
握り締めた手の中のそれが、ビクンと揺れた。
『わからない筈がないだろう。ちゃんと握るんだ』
俺は、言われた通りにゆっくりと、包み込むように握り締めた。
気持ちよさが広がっていく。
少しずつ力を入れて握ると、先から熱いものが漏れるのを感じて、
手が動かせないまま硬直してしまう。
『言うんだ、啓太』
…動かしたい。
このまま、上下に手を擦りつけたい。
そう思い出したら、そのことで頭がいっぱいになってしまう。
だけどまだ扱いちゃいけない。
だって中嶋さんに許してもらってない。
早く、手を動かしていい許可がほしくて、俺は正直に答えていた。
「か、かた…い、です…」
『それだけか?』
恥かしいのに。俺はぎゅっとそこを握り締めたまま。
「お、…きい…です…っ、 すごく…立って…ます…」
からかうような中嶋さんの声。だけどイヤじゃない。
更に促されて、俺はぎゅ、と目を閉じて小さな声で言った。
「…ちょ…と、ぬ、濡れて…ます…」
自分から言ってしまった言葉に顔が火照る。
『いつからだ』
楽しそうに聞いてくる中嶋さんの声に、 俺をバカにする雰囲気は感じられなくて。
電話の向こうで、いつもの目で俺を見つめているんだと思うと うれしくて。
「中嶋さんから…電話…もらう、前から…です…」
俺は、正直に答えてしまっていた。
『一人でしようとしていたのか?』
慌てて首を振る。
「俺、できません、できなくて…っ」
『俺のことを考えてはできないか』
「ちがいますっ!ただ、は、はずかしくて…っ」
小さく笑ったような気がして、恥かしくてたまらないのに俺のそこはビクビクと震えた。
『啓太はそこをどうしたい?』
「さ…触って…ほしい、です…」
できないことだけど、俺はそう答える。
『俺の手だと思って、触ってみろ。見ていてやる』  
中嶋さんの手。
中嶋さんの手だと思って。
俺は、そっと目を閉じて、ゆっくりと右手を動かし始めた。

目の奥で、中嶋さんが俺にのしかかり、俺のそこを強引に扱きはじめる。
突き刺すような目で見つめられて。

その手を待ち焦がれていたそこは、その手の中で歓喜に打ち震えた。
「あ…っ、あ…っっ」
いきなり強引に布越しから扱いてしまい、突然の強烈な快感に
俺は泣き声のような声を上げてしまい、口を押さえる手がなくて
必死で声を押し殺そうとする。
だけど、扱く手は止まってくれなくて。
「や…っ、な、中嶋、さん…っ」
『声を我慢するな。もっと聞かせろ』
布が次第に湿り気を帯びてくる。
布越しの刺激が中途半端で、触りたいところに触れない。
強引に扱いても、布が邪魔をしてしまう。
「う…っ、あ…っ」
どんどん湿ってきて、下着がしわくちゃになって、そこから 濡れた音がし始める。
その音が聞こえて、俺はますます高ぶってくる。
「な、なかじ、まさん…っ、 ぬ、脱がせ、て…くださ…いっ」
『駄目だ。直に扱いたらすぐイくだろう啓太は。我慢しろ』
その通りだった。きっと直に触ったらすぐにイってしまうだろう。
でも、だからって…このままなんて我慢できない…っ。

『啓太の部屋に鏡はあるか?その前に行けば脱がせてやる』
俺は、うっすらと目を開けて、ベットの端に立てかけてある鏡を 見つめた。
そこに行けば脱いでもいいんだって思うと、身体はふらふらと
その前に這い寄っていった。
鏡の前に来ると、顔を火照らせて泣きそうな顔をした自分が写って
思わず目をそらしてしまう。
『その鏡に啓太のそこを映せ。自分を見ながら扱くんだ』
あまりの言葉に、俺はショックですぐに言葉が出なかった。
「い…いや、です…っ!」
『言うとおりにするんだ』
「こんな…っ」
『そのままでもいいのか?』
「だけど…っ!」
そんなこと、できないよっ。
俺は半泣きになっていた。
『いいか、その鏡から見ているのは俺だ。いつも俺が見ている啓太だ。
自分がどんなにいやらしい顔と身体をしているか、自分で確かめてみろ』
鏡に映っているのは、中嶋さんからの視線。
この鏡に映っている自分を、中嶋さんが見ている。
俺は、恐る恐る…もう一度鏡を見つめた。
上着と下着だけを着、乱れた自分。
だけど、その表情は、どこか期待しているような…。

『足を広げて、全部さらけ出せ』
俺は言われるまま、鏡の前で片手でゆっくりと下着を足から引き抜いていく。
そこが鏡の前に露になり、とっさに俺は顔を反らせた。
『自分で扱いているところ見せるんだ、啓太』
自分を見つめるのがこわくて、俺はぎゅっと目を閉じる。
…でも、俺の身体はもう逆らえない。
濡れそぼったそこが立ちきっていて、ぬらぬらと濡れている。
鏡ごしに見た自分のそこに、俺は目が離せないでいる。
俺、これを…中嶋さんに…見せていたのか。
中嶋さんのあそこや手で散々イかされ、いいように遊ばれるそこは、
中嶋さんを待ちわびて、震えていた。
俺は、ゆっくりと手を伸ばし、それに触れる。
「…っ」
やっと直に触れられたそこは、敏感に反応した。
濡れきっていて、湿っていた手にぬるっとした感触がまとわりつく。
ゆっくりと扱き始めると、そこは一気に反応しはじめた。
「は…っ、はぁ…っ」
扱いている自分は、まるで他人事のようだった。
足を大きく開き、うつろな顔をして、 左手で電話を握り締め、
右手は必死でそこを扱いて。
こんな姿を中嶋さんに見られてたんだと思うだけで恥かしくなってきてたまらなくなる。
だけど、そう思ったら…中嶋さんがこんな俺を見てくれてるんだって思いはじめたら、
俺の身体は逆に反応しはじめた。
「う…、んん…っ」
手が、どんどん濡れて溢れてくる。
鏡の前の俺が、腰を揺らし始める。
「な、かじま…さん…っ、あぅ…っ」
無意識に出た名前は、電話のむこうの中嶋さんではなく、
俺が一人でする時 口にする人の名前で。
『一人で抜くとき俺の名前を呼ぶのか?』
図星をつかれて、俺は恥かしさのあまり答えられない。
『そうなのか?啓太』
だけど、中嶋さんは答えを待っている。
「…は、はい…っ」
俺は半泣きになっていた。
こんなこと言ってしまうなんて、 恥かしくてたまらないのに。
俺のそこは…一人でするいつもとは比べ物にならないぐらい、
ぐちゃぐちゃに濡れていて、大きな濡れた音にさえ身体が震えるぐらい感じてしまう。
そこの下をくぐり、透明の液体は後ろまで濡らしていた。
『もっと腰を突き出せ。俺を誘うんだ』
腰が跳ね上がって突き出すような格好になる。
扱く右手の動きが早くなり、擦れる濡れた音が止まらない。

『電話を啓太のそこに近づけるんだ。いやらしい音を聞かせろ』
「い、いや…っ、そ、んな…っ」
『どこまで濡れているか俺に見せるんだ』
「で、でも…っ」
有無を言わさない声に、朦朧としている俺は押し当てていた電話機を離して、
ゆっくりと…そこのそばに持っていく。
扱く手が…俺を裏切って、電話機の数センチ前でいっそう強く扱き始めた。
「や…、や……ぁ」
恥かしくてたまらないのに。
俺の手が、止まらない。
先からどんどん溢れてきて、俺の手を濡らし、激しく扱いて大きな音をたてる。
それは、俺も耳を塞ぎたくなるほどの大きさで。
電話ごしの中嶋さんにも、すべて聞こえてしまってるはずで。
「う、あ…っ、あ…!」
俺はこみあげてくる射精感に耐えようと、背をそらしてかぶりをふる。
でも、手は電話機の向こうに聞かせようと、止まらない。
だけど、もう我慢ができなくて。
俺は受話器を耳にもどし、泣きついていた。

「な、中嶋さん、俺、もう…っ!」
『すごい音だな。そんなに気持ちいいのか?』
「中嶋、さん…っ」
『鏡を見るんだ。どんな顔で啼いてるのか見せてみろ』
涙が頬を伝っている。
「も、う…っ」
『啓太は本当にいい顔をするからな。たまらない』
そこが大きく震えて、俺は悲鳴を上げる。
『我慢している時の顔が一番そそられるな』
「い、…っ」
『イく時の顔を見ただけで…俺もイきそうになる』
じゅく、と熱いものが吹き出て、俺は必死できつく握り締めて 押しとどめようとする。
「い、かせ、て…っ!!」
涙声は悲鳴に変わっていた。

『ダメだ。続きは会うときだ、そこまでで我慢しろ』
信じられない言葉に、俺は目を見開く。
「そ、そんな…っ」
そんな…俺、ここで止められたら、気が狂ってしまう。
俺は泣きながら懇願していた。
「お、お願いです…っ、や、やめないで…っ」
もう、手を少しでも動かしただけで、射精してしまう。
それを必死で押しとどめ、俺はただ中嶋さんの許しを得たくて泣いていた。
「な、なんでもします、から…っ、だから…っ」
『なんでも、か?』
俺はただうんうんと頷いていた。
『寮に戻ったらすぐに俺の部屋に来い。そして俺のを咥えるんだ』
そんなこと――今の俺には。
ただ、喜びでしかない。
口の中に唾液が溜まってきて、俺はごくりと唾を飲み込む。
寮に帰ったら、中嶋さんのを――そう思うだけで。
『今日の分までたっぷり飲ませてやる、…覚悟しておけ』
身体の芯に直接響く声に、もう俺は、許しを得る前に止められなくて。
「……ぁ――――」
ゆっくりと、握り締めた手の間から白い液体がどんどん溢れ出す。
一気に出ずに長く続く、強烈な射精だった。
止まらない――――
腰が細かくグラインドして、俺は声も出せず身体をひきつらせて。
受話器が左手から落ちるのも気が付かず、俺はすべてを出しきっていた。



『…勝手にイったな…しょうがないやつだ』
正気をとりもどすまでに長い時間がかかり、ようやく我に返って
受話器を掴んだときには、中嶋さんはふてくされて…いや、怒っていた。
「ご、ごめんなさい…っ!!」
俺はただ謝り続けることしかできない。
許しも得ずに一人で、中嶋さんを放ったままでイってしまったんだから。
何度も頭を下げて謝っていると、やっと許してくれたのか、
くく、と笑い声が聞こえたきた。
『……まあいい、なんでもしてくれるそうだしな。
いろいろ考えておくさ…いろいろな』
中嶋さんの声が、甘いを通り越して凄みを帯びていて背筋が凍りつく。
「あ、あの………」
『何だ』
「……なんでも、ありません…」
もちろん、何も言い返せないのだった。



始業式が楽しみだけど、不安と期待とでごっちゃになって、
どう迎えたらいいのか緊張してしまって考えられなくなってしまった。
会える日まで、あと数日。
それまで俺、今まで以上に中嶋さんのことを考えてしまうに違いない。
さっきまでのことがもう思い浮かんできて、必死でかぶりを振る。
しかも、この部屋でされたことだから余計にリアルで。

――――ってことは、逆効果じゃないか…っ!

「…中嶋さんのばか…っ」
枕に顔を埋めて叫んだ。
顔がまた、赤くなってる。
少し顔を上げて、さっき切ってしまった目の前の受話器を見つめた。
そうだ、いいことを考えついた。
会える日まで、毎日中嶋さんに電話してやるんだ。
しかも長電話、してやるっ。
だって俺ばっかり我慢してたんだから。
それぐらい、いいよな?

それは、俺のささやかな復讐だ。





(終)