■奮える舌vol,5■  



「成瀬が触れたんだったな。ここに」


指が唇を撫でる。ゆっくりと。

長い指。大きくて、神経質そうで…とても綺麗な手だ。
この手が、いつも俺をわけがわからなくなるなるまで翻弄するんだ…。
ただ触れているだけなのに、俺はたまらなくなる。
今にも口の中に入っていきそうなのに、入れてくれない。
じらされて、その指を自分から咥えたくなり、俺はごくりと咽喉を鳴らしてしまった。
その音がやけに大きく響き、くく、と中嶋さんに笑われ、顔に血が上る。
中嶋さんの唇が甘く囁く。その唇の動きさえ淫らで。
「俺が前に言ったことを覚えているな?」
熱に浮かされたまま、俺は小さく頷く。
「言ってみろ」
「……他の男に、…触れさせ…ない…」
「だが、お前はそれを裏切った、…そうだな」
やさしい声だけど、俺を責めるその言葉にいたたまれなくなって俯いた。
「ご、ごめんな…さい…」
「謝ることなら誰にでもできる。まず…俺に誠意を見せることが先だと思わないか?」
否定できなくて、ただ頷くしかない。
「どうすれば、誠意を見せれると思う?…啓太」
「わ…わかり…ません…、 で、でも…俺、なんでもします…許してくれるなら、何でも…」
許してくれるなら、すがりついてでも。
俺にできることで許してもらえるのなら、何だってできる。
そうすることで俺のいやな記憶も消えてしまえばいい…そう思った。
「…何でも、か」
口の端を上げて、俺の顎をつかんだままの手の親指で俺の下唇をなぞる。
微かに覗いた中嶋さんの舌を見ただけで、口の中に唾液が溢れてくる。
なにをすればいいんだろう。
やっぱり、やっぱり…いやらしいこと、なんだろうか…。
不安で心臓が高鳴る。
…そうであってほしい。
って俺……何を期待しているんだよ。
「そんなにうれしそうな顔をするな」
口の端を歪めて笑われて、図星をつかれた俺は慌てて俯く。
「期待させて申し訳ないが、啓太を喜ばすことをしてやる気はない」
わかってる。
…中嶋さんが何かしてくれるなんて…思ってない。

「…俺を喜ばせてみろ。その方法は自分で考えるんだ」
俺は中嶋さんを見上げた。
「中嶋、さんを…?」
「だが一つだけ条件がある。使うのは口だけだ、口だけでできることを考えろ」
「口…だけ…?」
口だけでできること…?
「何でも…っていっても…俺…、口だけでなんて、何も…」
「口だけでできることは何がある?」
考えてみる。 口でできることなんて…ひとつしか思い浮かばない。
ためらいながら俺は言った。
「…キ、キ…ス、と、か…ですか…?」
「キスだけで俺を喜ばせることができるのか?啓太」
中嶋さんがいじわるそうに笑った。
そうだよ、絶対無理に決まってるじゃないか。
俺のキスなんかで喜ばせることなんて、100年かかってもきっと無理に違いない。
「でも、お、俺、口だけでなんて…絶対無理です…っ」
「できるさ。方法はいろいろある」
そう告げると中嶋さんはいきなり、俺のブレザーに手をかけて脱がせ始めた。
ベルトをはずされ、シャツのボタンを上下いくつかをはずされる。
全部脱がされる、と思ったけれどそのまま手が離され、下半身に手が伸びたかと思うと、
ベルトに手をかけて俺が抵抗するのも気にせず一気に下着ごとひきずりおとした。
俺は抵抗もできない一瞬のうちに、下半身を剥き出しにされてしまった。
「な、な、な、中嶋さんっ!?」
俺は前をとっさに両手で隠してしゃがみこんだ。
シャツと緩んだネクタイ、そして靴下しかつけていない格好にされたのだ。
「な、なにを…っ!」
隠した俺の中心の感触。
そこは、さっきのキスでしっかり立ち上がってしまってた。
恥かしくて一気に顔に血が上る。
「中嶋さんっ!!さっき俺に何もしないって…っ」
中嶋さんはそんな俺を放っておいて、長机から何かを取って戻ってきた。
「何もしないさ。ヒントを教えてやるんだ」
手に持っている黒いものは…俺は目を見開く。
「啓太の口だけで俺を喜ばすのはまず無理だからな。
だからまずそそる格好をして俺を興奮させてみろ。俺の目を楽しませる努力をするんだ」
そんな…という言葉も、目の前のモノに驚いてしまって声が出ない。
「…とりあえず、これで両手を繋いでもらう。手を使わないようにな」
黒の皮が光る手枷。
「そ…そんな…っ」
前を隠していた両手をひきはがされ、俺が必死に抵抗するのも軽くあしらわれて両手を後ろにまわされると、
冷たい感触がすると思ったとたん、幅10センチぐらいの 皮が俺の手首に巻きついた。
手を動かそうとする。 だけど、ジャラ、と両手を繋ぐ鎖が音を立ててつっぱるだけで、動かない。
「いやだ…っ!!外してください、中嶋さんっ!!」
もがきながら必死になって懇願するが、中嶋さんは片方の眉をゆがませるだけだ。
「なんでもするんだろう?」
「だけど、こんなの…っ!!」
膝立ちで暴れてみるけれど、まったく外れそうにない。
目の前で中嶋さんが長机にもたれかかり、半分腰を乗せて言った。
「さあ、どうやって喜ばしてくれるのか…お手並み拝見としようか」
俺は息をのんだ。
本当に、この格好で…中嶋さんを喜ばせる…?
…無理、だよ…っ!
鋭い目が俺を貫いている。
無理とかできないとか言える雰囲気じゃない。
どうすればいいかわからず、ただ血の気が遠のいていく。
中嶋さんは何も言わずに腕を組んでただ俺を見つめ、俺の行動を見守っている。

 動くこともできず、長い沈黙が続いた。
どうしたら。 どうすればいいんだよ。
”喜ばせる”なんて。
俺は、よろよろと立ち上がった。
後ろ手に手枷をはめられているせいでうまく立ち上がれない。
制服のシャツのおかげて、俺のそこが隠れていることにホっとする。
ゆっくりと長机にもたれかかる中嶋さんに近づいてゆく。
中嶋さんはどこも乱していない制服で、俺はこんな恥かしい格好で。
その差に俺は逃げ出してしまいたくなる。隠れてしまいたい。逃げ出してしまいたい。
だけど、そんなことをしたら中嶋さんに許してもらえないんだ。
それだけは、ダメだ。
中嶋さんに許してもらう、そのためなら何でもするっていう覚悟はあったはずだ。
できることを、するしかない。
喜ばせることができなくたって、できる限りのことをしてみよう。
そう思うしか、ない。
だけど、同時に違うことで緊張している自分がいる。
だって、俺から何かするなんて…初めてだったから。  

中嶋さんが目の前にいる。
長机に腰を下ろしているせいで、目線の高さは殆ど変わらない。
視線がぶつかって、俺は目を反らした。
どうやって中嶋さんに触れたら…手が使えない俺ができることといえば、
制服に身を包んでいない中嶋さんの顔に…キス、するしかない。
それしか…ないよな。
胸が高鳴りだす。
目を閉じて、緊張をほぐそうとする。
自分からキスするのは唯一したことがあるはずなのに、それを待たれている状況でするのはもちろん初めてで。
意識すればするほど緊張して動けなくなりそうで、俺は覚悟を決めて中嶋さんと視線を合わさないよう
ゆっくり顔を近づけていった。
中嶋さんが視界にはいらないよう、視線を逸らしながら…。
頬に、口をおしつけた。
初めて触れる冷たい頬の感触。
もう一度触れる。そして何度も。
中嶋さんの目は見れない、恥かしくて。
少しずつ場所をずらして、唇に…触れる。緊張して俺の唇は震えてる。
目を閉じてゆっくりと押し付けてみた。 薄くて、形のいい中嶋さんの唇。
実は、中嶋さんはあまりキスをしてくれない。
俺が本当にほしがっている時にだけ、ご褒美のようにしてくれるぐらいで。
だけど、だからこそしてくれた時はものすごくうれしい。
その時には、中嶋さんの唇をゆっくり味わえない状態なことが殆どなんだけど。
…軽く、何度も唇を合わせてみる。
そして、さっき中嶋さんがしてくれたみたいに、下唇を軽く歯で咥えてみた。
やり方がわからないから、一生懸命思い出しながら。
舌を出して、中にためらいながら入れてみる。 中嶋さんの歯をなぞる。
だけどそれ以上なにをすればわからなくて。
自分が立てた濡れた音にドキっとしてしまい、慌てて口を離してしまった。
だめだ…っ!
こんなことじゃあ全然喜ばすなんてできないよっ…。
実際にやってみると全然できない自分がくやしい。
 今度は耳元に口を寄せてみる。
何度もキスをして、舌を使ってみるけれど、まったく要領がつかめない。
そろそろと舌を下ろし、首筋にキスをする。
だけど、それから下は制服で隠れてしまっていて。
「…あ、あの……、中嶋、さん…」
中嶋さんが俺の方を向き、つい目を合わせてしまった。
数センチしか離れていない場所で見る、中嶋さんの驚く程整った顔。
眼鏡の奥の鋭い目が、楽しそうに俺をじっと見つめていた。
俺は…一気に頭に血が上ってしまい、口を閉じることも忘れる。
「どうしたいんだ?」
聞かれて、我に返った。
心臓の鼓動が早すぎて…呼吸がしにくくなってる。
「あ、あの…っ、ふ、服を…っ」
無言で、中嶋さんがネクタイに手をかけて一気に緩めると、
すぐにそれをはずしシャツのボタンを上から外し始める。
俺は息を呑んでそれを見つめているうちに、どんどん緊張していく。
一番下のボタンを外すと、これでいいか、と俺に聞くけれど。
俺は、もうまともに目を合わすことができなかった。
俺、今からとんでもなく恥かしいことをしようとしてるんじゃないだろうか。
露になった鎖骨が見えるだけで、こんなに緊張してしまって…
こんなことで俺、中嶋さんを喜ばせることができるのか?  
緊張しながらゆっくりと、俺は中嶋さんの首の下へと唇を這わせていく。
見ないようにしたくても、場所がわからず目を開けるしかなくて、…その度に目を逸らしてしまう。
だけど、胸の隆起に唇を寄せていくと、その胸にある小さな突起からどうしても視線が逸らせなくて、
頭が…くらくらしてきて…。
震える唇を、そこに寄せて…舐めたとたん、俺の身体に甘い電流が走った。
「ぁ…」
思わず声が漏れてしまって、自分がされたわけじゃないのに感じてしまう自分に驚く。
まるで自分がされたみたいに、俺の胸の先がじん、と疼いたのだ。
震えながら、舌を尖らせて先をつついてみたり、周りを舐めてみる。
次第に固くなっていくのがうれしくて、いつのまにか俺は夢中になって舐め続けてしまっていた。
自分のそこも…固く立ち上がっているのがわかる。
そこが見えないようにしながら、中嶋さんの足の間で、俺は膝をついて跪いた。
キスを繰り返しながら、ひきしまった腹へと舌を這わせる。
その下へと続く筋肉の筋。

…唾液が溢れてくる。
俺は朦朧としたまま、制服のズボンのチャックに歯をかけた。
力を入れて、ゆっくりとチャックを引き下ろす。
自分がすごいことをしてるってわかってる。
恥かしくて死にそうだけど、それよりも喜んでほしいっていう気持ちがどんどんこみあげてきて。
下着を唇でかきわけで、俺は…中嶋さんのそこ、を…取り出した。
思わずたまらなくなって目を逸らしてしまう。 一気に頭に血が上ってきて、息が荒くなってくる。
目を閉じたままで、思い切って舌をのばし、触れてみた。少し熱い肉の感触。
中嶋さんのそこは、少しだけ硬くなっていた。
やさしく唇ではさんで下着の外へ出し、 そっと咥えてみる。
何度か唇で扱いて、舌を尖らせて先をつついてみる。
もう一度口に咥えこんでそのまま舌を竿に這わせて舐めていると、少しずづだけど次第に持ち上がってくる。
どんどん大きくなっていくのがうれしくなって、俺は夢中になってしゃぶり続けた。
中嶋さんの雄の匂いに、頭の芯が痺れたようにぼうっとしてる。
頭を下げて、歯をたてないようにやわらかい袋をはんでみた。
しばらく袋の愛撫を続けていると、鼻に芯が当たって思わず目を開けてしまい、
俺は…中嶋さんのそこを見てしまった。
反り返って、俺の唾液で濡れて光る…大きくて、いやらしい色の。
眩暈がして視界がぼやける。
なのに、大きく咽喉を鳴らしてしまい…唾液がどんどんこみあげてきて…。
目を逸らせないまま、俺は大きく口を開けて咥え込んだ。
大きくて、とても全部入りきらない長さで、俺は精一杯奥まで咥え込む。
「…んっ、…ぅんっ、んん…っ」
大きく頭を動かして扱くと、 口いっぱいに頬張ったごりごりとしたカリの部分が俺の口の中を蹂躙していく。
大きくでっぱっているところが俺の一番感じる唇の上側を何度も刺激していき、
擦れる度に自分の身体がビクビク跳ねるを止められない。
口を犯されているんだ、そう思ったら、背筋に甘い快感が走り全身が震えた。
目に涙がたまって、視界がぼやけてる。
口を離し、舌をとがらせて小孔をつついては、 裏筋を舐め上げてカリだけを咥えて舌全体で舐め上げると、
強い雄の匂いと、苦い味が口の中に広がってきて、思わず小孔に吸い付いてそれを吸った。
中嶋さんが感じてくれてると思ったら、俺の震えて立ち上がりきったそこから先から熱いものが溢れてくる。
俺の腰が、勝手に揺れている。
シャツの布が俺のそこの先端に触れて、しゃぶりながら俺は声を漏らした。
口に入りきらない大きさの中嶋さんのそれに、必死に舌をはわせる。
それは俺の唾液で滴り、俺の舌を跳ね返すほどの固さで、俺は泣きそうになりながら舐め続けた。
「…啓太」
突然名前を呼ばれて、俺は顔を上げる。
中嶋さんと目が合った。
目が涙でかすんで、どんな顔をしているのかよく見えない。
もう、いいんだろうか…。あまり、気持ちよくないんだろうか。
少しなごりおしい思いで、俺は震える足を必死で動かして、ゆっくり立ち上がった。
足がガクガク震えて、立っているのがつらい。

「俺の目も楽しませてみろ、…できるな」
何をすればわからないまま、俺はコクコクと頷いた。
「俺の上に乗れ」 そう言って中嶋さんが後ろに上半身を倒した。
俺は、手が使えない不自由なまま足を必死で上げ、長机の上に乗る。
そしてそのまま中嶋さんのそこに口を寄せようとすると止められた。
「逆を向いて俺を跨れ。俺に恥かしいところを見せながらしゃぶるんだ」
「……っな、…!」
信じられないその言葉に、俺は言葉をなくす。
それはシックスナインという、俺にとってはとんでもなく恥かしい格好で。
「い、やだ…っ」
俺は何度も首を振った。
そんな恥かしいこと、できない…っ!
「できないか?」
「そ、そんなこと、いわれても…っ」
強制しようとはしない中嶋さんに、俺はただ首を振り続けるしかない。
「俺は何もしない、見るだけだ」
見られるっていうのがいやなんじゃないかっ…!
だけど、もっといろんなことをしないと、きっと中嶋さんはイってはくれないだろう。
もっと喜ばせること…今中嶋さんが教えてくれたことをすれば。
もちろん、恥かしい。
恥かしくてすぐにでも逃げ出してしまいたいけれど。
俺は、そろそろと中嶋さんに近づく。
まだシャツで下半身は隠れている。うまく隠せるかもしれない。
中嶋さんの胸の上のあたりで、俺は足を広げて跨った。身体は中嶋さんの下半身を向いている。
身体を必死で縮めているので、俺のそこは中嶋さんの顔の上には届いていないはずだ。
そして、そのまま前にかがみこみ四つん這いになると、中嶋さんのそこへ口をはわそうとした。
だけど、両手を後ろで縛られていて手で上半身を支えられない。
腰から下に力を入れないと、前に倒れこんでしまいそうだ。
「待て、啓太」
呼び止められて止まると、俺の後ろで何か音がしている。
何かと思い、頭を上げようとしたとたん。
「ああっ!!」
俺の固く立ち上がったそこにいきなり強い刺激が走って、俺は頭を中嶋さんの下半身に押し付けてしまう。
突然そこを触られて、全身に電流が走った。
触らないって言ったはずなのに。
「…やっ、やあっ!」
強すぎる刺激にビクビクと下半身が痙攣する。
何をされてるのかわからないけれど、俺のそこを中嶋さんが触っているのはわかる。
だけど、何か違う感触がするのだ。
先っぽになにかが当たり、きつくしめあげるようなかんじがする。
腰を振って逃れようとするけれど、力が入らない。
「や…中嶋さん、中嶋さん…っ!」
わけがわからなくて、やめてほしくて俺は半泣きになって叫んだ。
何かに俺のそこがきつい何かに覆い包まれていく。
中嶋さんの指が離れたのがわかって、俺はかがみこむようにしてそこを覗き込んだ。

「…や…」
感触で何をされたか気が付かなかったのは当たり前だった。
それは、今までつけたことがないものだったから。
信じられない。
俺のそこが、コンドームで覆われていた。
息をのむ俺に、中嶋さんが言った。
「いきなりイかれて俺の服が汚れると困るからな」
ひどい、という言葉も出ない。
だって…俺のそこは…しめつけられる刺激にもう限界にまで膨らんでいて。

恥かしさに涙が溢れた。
俺…俺。
こんなひどいことをされているのに感じてしまってる。

「もっと俺の前に突き出すんだ。腰を揺らして誘え」
膝が震えて体を支えきれず、身体の重心が前にかかって肩を中嶋さんに押し付けながら。
中嶋さんのそこを咽喉の奥までくわえ込み、夢中でしゃぶりつく。
シャツは俺の腰の上までたくしあがってしまい、下半身はむき出しになってしまっていた。
下半身を、中嶋さんの顔に跨って、腰を揺らしすべてを晒して。
俺は、コンドームを被せられたそこを見せつけている。
「ゴムがきつそうだな、はちきれそうじゃないか。…そんなに見られて感じるのか?」
恥かしくて俺は泣いていた。
泣きながら、何度も襲ってくる射精感に堪えていた。
中嶋さんのものが俺の口の中を何度も何度も蹂躙する。
俺の唾液が溢れて、止まらない。
「やあ――っ!」
いきなりだった。
中嶋さんが、俺の尻を思い切りつかんで。
「もっとよく見せろ」
そう、言ったような気がした。

尻に長い指が食い込むほどきつくつかまれ、左右に拡げられている。
「いや―――!!」
後ろの孔を、見られているのだ。
そう知ったとたん、俺は咥えたものを離して悲鳴を上げた。
その手から逃れようともがくけれど、びくとも動かない。
膝から力が抜けて、中嶋さんの身体の上に倒れこみ、
俺の体重でそこが中嶋さんの胸に強く押し付けられ、擦られる。
限界まで張り詰めたそこが押しつぶされる衝撃に俺は。
「ひっ――ぃ」
小さな悲鳴を上げて、コンドームを被せられたまま。
中嶋さんが見ている数センチ前で、何度も腰を突き出し、中嶋さんの胸に擦り付けて。


―――― 止められない。


気を失いそうになりながら…俺はコンドームの中に射精していた。






「ご、ごめんなさいっ、ごめんなさい…っ」
泣いて、しゃくりあげながら謝り続ける。
俺は、とんでもない格好で、しかも中嶋さんの胸に…出してしまったのだ。
それも、中嶋さんを喜ばせるはずだったのに、俺が先に根を上げてしまい… 勝手に自分だけでイってしまった。
中嶋さんを喜ばせることができなかった。
しかも、あんなはしたない格好で。
自分が自分で信じられない、恥かしくて逃げ出してしまいたい。
中嶋さんは長机から降りて黙って服を整えている。俺は長机の上で座り込んだままで。
その服は、中嶋さんが予測してつけたコンドームのおかげで…汚れなかった。
「早く服を着ろ、丹羽が来る」
そう言って中嶋さんが俺の手枷を外してくれて、俺の脱いだ服を 長机の上に乗せてくれた。
「な、中嶋さん…」
恐る恐る見上げると、中嶋さんが俺を見た。 その目は、俺を責めてはいないように見えて。
「俺、でも…っ! まだ…中嶋さんを、喜ばせて…ないのに…っ」
「俺をイかせろとは言っていないだろう」
大きな手が俺の頭の乗せられ、中嶋さんの顔が俺に近づいてきた。
「それにまだ…啓太に飲ませるのは先だ。 もっと啓太をいやらしい身体にしてから、な」
中嶋さんの目が、強く鋭く…誘うように俺を見つめて。
俺は、目を逸らすこともできず泣くことも忘れ息を呑む。
熱いその目を見ているだけで、俺は動けない。
「…今日の啓太は随分楽しませてもらった」
囁かれて、俺は恥かしくなっていたたまれず俯いた。 また思い出してきて、中嶋さんを見上げられない。
でも、はっと気が付く。
「あの、俺…許してもらえるん、ですか…?」
最後の言葉を、そう理解していいんだろうか。
「…ああ」
あっさり答えられて少し拍子抜けしてしまったけれど。
俺は飛び上がって叫んでしまいそうだった。
やった…!! 俺、許してもらえるんだ…。
中嶋さんにひどいことをされたし、いろんなことをみんなに言われたり、いろいろあったけれど…。
でも、俺中嶋さんに許してもらえたら、もうそれでよかった。

 長机から降りて、必死で服を着替えている間。
まだ俺は、ひとつだけどうしても言いたいことがあって。
それは、学園に戻ってくる前から思っていたことだった。
どうしても、これだけは言っておかなくちゃいけない気がする。
もう先ほどのまでの名残を残さず、大人のおもちゃのビニールを片付け始めた中嶋さんに
俺は勇気を出して言った。
「中嶋さんっ」
中嶋さんにはたいしたことじゃないけれど、俺にとっては重要なことだった。
「…俺、…俺…始業式の前の日、中嶋さんに…会いたかったんです…。
ずっと会えなかったから…、だから俺…すごく、楽しみに、してて…」
いいわけみたいに聞こえて、俺は止めた。
言いたいことは、そんなことじゃないんだ。
「俺っ、すごく会いたかったんですっ!」
大きな声で、叫んでしまった。
恐る恐る中嶋さんを見ると…。
ちら、と俺を見て。
その時ほんの少しだけだけど、微笑んでいるような気がした。


「これを寮に持って帰ってくれるか、それから…これは捨てておけ」
おもちゃのビニール袋を押し付けられてよろめく俺に、もうひとつ 右手に何かを掴まされた。
「わっ!!」
驚いて手放しそうになり、慌てて掴みなおす。
顔にまた血がのぼった。 まだ少し生暖かくて湿ったコンドーム。しかもたくさん…入ってる…っ。
「目立たない所に捨てろよ」
何も答えられない…。
こんなの、一体どこに捨てたらいいんだよ…。

 その時、勢いよく学生会室のドアが開かれた。
「おいヒデ聞いたかっ!!?あの啓太が…って、わわっ!!」
その大声に、俺はびっくりしてドアの方を振り返る。
…王様が、俺を唖然として見ていた。
その視点が、ゆっくりと、俺が抱えている袋と、右手に持ったものに降りていき。
大人のおもちゃを山程抱え、使い終わったコンドームを持っていることを忘れて立ち尽くす俺と
――呆然としている王様。
しばらくの沈黙。
ふいに、王様と視線がぶつかった。
王様の顔が一気に朱に染まり、ぶん、と首を回して俺から目を逸らしたとたん、
「す、すすすすまんっ!!!」
そう叫んで、ドアを思い切り閉めると、バタバタと走って逃げていく音がした。
訪れた沈黙の中、後ろから中嶋さんの押し殺した笑い声が聞こえてきて、その声で俺は我に返った。
あれって…王様、もしかして…もしかして…。
何か、誤解してないか…?
「ちょ…っ、中嶋さんっ」
振り返って訴える。
「王様、きっと誤解してますよっ、ど、どうしようっ!!」
「放っておけ」
もう耐えられない、といったように、声を上げて笑い始めた。
滅多に見れない中嶋さんの笑顔だけど、喜んで見られるはずがない。
「笑ってないで、なんとかして下さいっ!!」
何を言っても、中嶋さんは俺の言うことなんて聞いちゃくれなかった。



 
  その後、表面上は直接噂のことで言われることはなくなり、俺の噂は治まってきたように思えた。
だけどそれは――王様までもが俺の激しいプレイに逃げ出した、という恐ろしい噂が追加されたおかげだった。
俺はしばらく、一部の人から畏怖と尊敬の目で崇められるようになってしまったのだった。


 きっと、王様のことも中嶋さんが流したに違いない――――。







(終)