++ジェリーヒップ++  後編




 ………痒い……。

 次の日の昼頃から、ズキズキするほどの痒みに襲われている。
 原因は、もちろんあの傷口だ。掻き毟りたくていてもたってもいられない。授業も何もかも手につかない。
 傷が治ってきているのだろうか、それとも薬の効き目なんだろうか。いや、そんなことはどうでもいい、この疼きが治ってくれるなら何でも構わない。
 掻きむしれる場所じゃないから、尻を動かして傷口を擦れさせる他に痒みを忘れさせる方法がない。でも皆がいる前でそんな怪しい動きをするわけにもいかなくて…。
 こんなに痒いのは、本当に傷が治っているからなのだろうか。もしかして、もっと傷がひどくなって膿んでいるからだったりして…。
「…はは…」
 自分で冗談交じりに考えたことが、ずしりと心臓に響いてきた。
 …まさか、まさか傷がひどくなっていて、中嶋さんは諦めて匙を投げてしまったとか…。
 寮に戻る歩道を歩く足元が、ひんやり冷たくなってくる。
 風呂に入って、こっそりとそこを丁寧に洗ってみた。だけどちっとも痒みは治まらない。薬は殆ど残っていないはずだから、薬のせいじゃないはずだ。
 自分の部屋に戻って自分で触るなり、鏡で確かめればいいんだけれど、何か見つけてしまうのが怖くて行動に移せない。
 頭から布団を被って忘れようと目を閉じてみる。
 だけど、何もしなければしないで、尻の痒みだけが頭をいっぱいにして…。
 膿んで血が流れて止まらなくて、病院に運ばれる生々しい映像が浮かび上がった。

 いつの間にか、俺は三年生の廊下の前のある部屋の前に立ち、ドアを思い切り叩いていた。
 しばらく叩いているとドアが開かれ、タバコを口に咥えたままの、ものすごい形相をした中嶋さんが現れる。真っ赤なオーラを纏っているように見えたけれど、今の俺は引き下がらなかった。
「中嶋さん、助けて下さいっ!」
 無理矢理中嶋さんを押しのけて部屋に上がりこむ。息を荒げている俺の後ろに中嶋さんが溜息をつきながら近づいてきて、俺は振り向いて中嶋さんの胸ぐらを掴んだ。
「膿んでるかもしれないんですっ!」
 見上げる俺を、中嶋さんはタバコを咥えたまま目を見開いてしばらく俺を見下ろした後、眉間の皺が消えて次第に笑みを浮かべるどころか、なんと噴き出して笑い始めたのだ。
「どうして笑うんですかっ!笑ってる場合じゃないんです!本当なんですっ!」
 シャツを掴んでいた俺の手を離し、俺を置いて机の上の灰皿にタバコを押し付けながら、まだ小さく笑い続けている。
「…本当に面白いやつだ」
「中嶋さんっ!茶化さないで下さいっ、俺、俺怖くって…っ!」
「どうして膿んでるなんて思うんだ」
「そ、それは…っ」
 とたん言いづらくなってしまい、俯いてから小さく「痒いんです」と呟いたとたん、ほお、とわざとらしく驚いたような声がした。多分、笑いをこらえてる。真剣になっているのに、ちっとも俺の気持をわかってくれなくてイライラしてきた。
「そんなに怒るな、まず見せてみろよ。膿んでいるのか見てやる」
 俺の目が据わっているのを見て、中嶋さんが声を和らげていつもの椅子の前に来るように促される。緊張しながらズボンと下着を下ろすと、椅子に座った中嶋さんが俺の腰を両手で掴んで引き寄せた。尻に中嶋さんの顔が近づいているのがわかって恥かしいけれど、真剣に見てくれているのがわかるから、動かないよう必死で我慢する。
「……ど、どうですか…?」
「薬は持ってきたか」
 念のためにと持ってきていた薬を伸ばされた手のひらの上に乗せると、無言のまま中嶋さんの手が離れて、尻を引っ込めようとするとまだだと言われて止められた。片方の腰を掴まれて、冷たい感触が入り口に触れる。
 痒みのために疼いていたそこへのひんやりした感触は、思わず溜息をついてしまう程気持ちよかった。指が中に入ってきて、痒い部分を擦っていき、心地よさに寒気のような快感が走る。
「…痛いか?」
「い、痛くない、です…」
「そうだろうな」
 く、と小さな笑いが聞こえる。痛いどころか、気持ちよくなっていることに気が付いているんだ。
「膿んでなどいない。治りかけているから痒いんだ。薬がよく効いたみたいだな」
 中に入っていた指が中で曲げられたのか、最も痒い部分を指の関節がきつく擦っていき、思わず気持ちよさに声を上げてしまった。
 本当に治っているのか、と聞くまでもない。だって、痛いどころか…。
「な、中嶋、さん…」
「何だ」
「…すいませんでした…、も、もういいです…」
 もう来ませんと言っておきながら、自分から押しかけて来てしまった事を今更思い出して、恥かしくて逃げ出したくなってきた。
「ついでに完治しているか見てやろうか?」
「え…あ、あの…」
 これ以上、どうやって完治しているか見るというんだろう。中嶋さんが言っていたご褒美という言葉を思い出し、ある思いが脳裡に浮かんできて離れない。
 完治していたら…。
 治っていたら、もしかして今度こそ、中嶋さんのが…。
 入り口付近で止まっていた指がゆっくりと再び中に入ってくる。熱くなってきている中が指を締め付けようと勝手に蠢いて、中嶋さんが失笑するのがわかって顔に血が上った。
「どうする?…啓太」
 中嶋さんはめずらしく強制しようとはしない。
 いつものように、無理矢理されるんだから、と自分に言い訳することなんかできないんだ。
 だけどもう、自分の気持に嘘をつくことなんて出来ない。
 …俺は小さく頷いていた。


 中嶋さんに言われたとおりに、目の前にあるベットにの縁に両手をつくと、自然に腰が曲がり尻が上がる形になる。いつもより更に突き出す格好になり、きっと中嶋さんには袋の内側まで見えてしまっているに違いない。中嶋さんは俺のすぐ後ろでいつもと同じように椅子に座り、足を組んで俺の方を向いている。
 しばらくその格好のままにさせられ、恥かしくて尻を隠そうと動いた時だった。入り口に硬くて冷たいものが当たって驚いて腰を引いてしまい、今度は尻を掴まれて固定される。
 ゆっくりと入ってくるものは、指よりももっと太いもの。硬い棒のようなもの。
「な、に…っ」
 中嶋さんのそこじゃない。尖った角が内壁を擦っていく。
「これが全部入ったら治療は終わりだ」
「あ…っ、や…め、…っ!」
 指とは比べ物にならない圧迫感があるのに、薬でぬめった中を抵抗なく入っていくのだ。
「なに、…なにを入れて…っ」
「思い出さないか?…啓太が入れたのはマジックだったろう」
「う…嘘…っ!」
 驚いて振り向いてみても、何を入れられているのか見えない。マジックなのか確かめられないけれど、その太さや硬い無機質な感触は、僅かながら覚えがあった。
 何故、またマジックなんて…!
「これを俺のものだと思って咥え込んでみろ。いやらしく誘うんだ」
「そんな…っ!」
 逃げ出そうと腰を動かすと、中に入ったそれが壁を擦ってまた傷つくんじゃないかと身体が強張る。それだけじゃない、滑りのよくなった中は、いつもより太いその刺激を感じようと蠢き始めて…。
「ぅあ、…っ!」
 自分で一番敏感な所に角を当ててしまい、ぶるぶると腰が震える度に更にそこを刺激していき、おぞましい快感にどっと全身から汗が出てきた。
「やり方がわかってるじゃないか、啓太。そうやって自分で動かしてみろ。俺は一切動かさない」
「いやだ…ぁっ」
 首を振って抵抗しても、マジックが擦れる事で快感を知った身体は、動いてくれないマジックを自分から動いて快感を得ようと動いてしまう。
 腰を突き出し、中嶋さんの目の前で腰を前後に動かして、動かないマジックに尻を埋め、入れたり出したりを繰り返す。中嶋さんがそれを見ているだけで、恥かしさで眩暈がしそうなのに。尻を後ろの中嶋さんに精一杯突き出し、はしたなく自分からマジックの角を内壁に擦り合わせた。
 自分で突く度に、立ち上がった前がびくびくと揺れる。もう先が濡れてしまっているかもしれない。
 浅い息をしながら腰を揺らしていると、意識が朦朧としてくる。
「あ…っ、あ…っ、な、かじま、さん…っ!」
「マジックでそんなに漏らしていたら、本番になったらお漏らしでもするんじゃないか?啓太には我慢する練習も必要かもな」
 中嶋さんが小さく笑いながらマジックを揺らし、俺は抜けていくそれを追いかけて尻を動かしてしまう。
 両手で身体を支えていられずにベットに肘をついて、思い切りマジックを締め付けると、マジックが中嶋さんの手から離れ、俺の尻に刺さったままになる。
「奥まで入ったぞ」
「や、や…っ、抜いて、抜いて下さいっ…!」
 入ったまま手放されて、必死に腰を動かして取ってもらおうとするけれど、首を回して見えた中嶋さんは楽しそうに俺の尻を見つめて笑うだけだ。恥かしさに眩暈がする。
「勝手に吸いついてるのがわかるか?まだ開いてきてるぞ」
「いや、だ…っ! 」
 支えを失ったマジックでまだ擦られる快感を得たくて、思うように動かないマジックを捕まえようと前後左右に尻を振り回してしまう。止められない、身体が言うことを聞いてくれない。
「咥えたまま字を書かせるのもいいな。紙を持ってきてやろうか」
「いやだぁ…!!」
 恥かしさに身体を捩ると、やっと一番いいところにマジックの角を当てることができて、その気持よさに喘いでしまう。
 くく、と堪えきれないような笑い声が聞こえてきた。
「そのままイクか?マジックをケツに入れて、牛みたいな格好で射精するか?」
 乾ききった喉がひくついてしまい嫌だと答えられない。恥かしくて涙が溢れてくる。必死に首を振って抵抗する、否定しようとするのに。
「な、なかじま、さん…っ、な、か…っ」
 全身から汗を噴き出し、自分のはしたない格好を正視できない頭は麻痺して、何を伝えればいいのか自分でもわからない。伝え方がわからない。
 …いやだ。
 このままイくなんて絶対に嫌だ…。
「…も、もっと…っ、、とい…っ」
「…何だ?」
 自分で何を求めているのかわからない。今のまま中途半端に尻にあるものに、耐えられない。
「ふ、といの…をっ…っ、い、入れて…入れて、ください…っ!」
 吐き出せない熱を爆発させるには、もっと、中嶋さんの熱さに目茶苦茶にされたい。小さな笑い声が背後で聞こえたけれど、もう恥かしさなんて吹き飛んでしまっていた。
 腰を掴んでいた手のひらが尻に乗せられ、するりと撫でられる。
「…切れるかもしれないぞ、もっとひどく血がでるかもしれないな。それでも入れてほしいのか?」
 こくこくと頷く。今の俺には、傷なんて治っても治っていなくてもどうでもよかった。
「痛くて泣き叫ぶかもしれないな…それでもいいのか?」
「ぃ…あ…っ」
 痛い、という言葉だけで恐怖なのか期待なのかわからない震えが走り、マジックを思い切り締め付けてしまう。マジックの縁が壁を擦り、むず痒い痛みが走る。
 中嶋さんに痛くされたい、もっとひどくしてほしい。
 そう、中嶋さんのそこでなら…何をされても、どれだけ痛くたっていい。
 中嶋さんというだけで俺の身体はおかしくなるんだ。
「い…い…です…っ、痛くても、い…っ」
「啓太はそんなに犯されたいのか?他の男でもいいんじゃないのか?ここを男のもので抉ってほしいだけじゃないのか?」
「ちが、ちが…っ、います…!中嶋さんじゃなきゃ、いやだ、いや…だ…っ!」
「どうしてだ、何故俺がいいんだ?」
「…す、好き…っ、好き、…だか…っ」
「ただ男が好きなんじゃないのか?」
 嗚咽が漏れる。何故中嶋さんはこんないじわるをするんだよ。俺が言いたいことをわかっているくせに。答えてくれなくて悲しくてくやしくて涙が溢れる。
 大きな音を立ててマジックが俺の身体から抜かれて、息をつく間もなく再びもっと太いものが入ってきた。
 生暖かい感触には覚えがある、これは、中嶋さんの…指、だ…。
 いつもより太く感じる指でいきなり乱暴にかき回されて、無機質なマジックよりもダイレクトに伝わってくる快感に、頭をシーツに押し付け、かぶりを振って喘いだ。
「あぁっ、あっ、…あっ」
 リズミカルに出したり入れたりを繰り返される。
 足の力が抜けかけて、中嶋さんが俺の足をつかみベットに膝をつくように持ち上げられる。上半身にシャツだけをひっかけ、下半身を剥き出して完全にベットの上に乗り、四つん這いになって中嶋さんの指を受け入れる格好になっていた。中嶋さんは多分…どこも乱すこともなく、椅子に座ったままだというのに。
「何本入ってるかわかるか?」
 指が俺の中で暴れ周り、尻がその手の動きに揺らされる。
「…わ、わから…っ、…に、にほ…ん…っ」
「4本だ、啓太。俺の指を4本も咥えてるんだ、わかるか?」
 壁に無数の指が暴れてる、こね回されている。
「っい、いやだぁっ、いや―――」
 そんなにも入れられている事がショックだった。マジックより太くてあらゆる方向に動き回る指を感じて泣き叫んだ。
 首を必死に振って、手から逃れようと必死になる。身体を振るとポタポタと前から溢れ続ける雫がシーツに散った。麻痺した前のそこは絶頂を迎えながら、すべて出し切れずに少しづつ零れだしているのだった。
 すべての指の先が、一番感じる一点を押してくる、何度も突いてはわざとかき混ぜるように回されながら、音を立てて激しく入れたり出したりを繰り返す。濡れた音と俺の鳴き声が耳をいっぱいにする。
「左手の指も入りそうだな、両手全部入れてかき回してやろうか?」
「い…っ、くっ、…あぁ……っ」
「…また広がったぞ、啓太」
 肉が食い込むほどに俺の尻を掴んでいた左の手が中心に近づいてくるのがわかるのに、動けない。
 今入っている太さと同じぐらいのものが、入り口からゆっくりと入ってくる。身体がひきつる程の圧迫感。何本なのか、中嶋さんは何本入れようとしているのか。
 痛みが背中を駆け抜け、頭まで伝わってくる。もういっぱいだった。限界まで広げられている。
 もう、もうこれ以上目茶苦茶にされたら―――
「っひ、っ―――」
 残りの精液が一気に噴き出した。
 中嶋さんの指を締め付け、その痛みと絶頂に身体を硬直させて、俺は声も出せずにシーツの上に白いものを撒き散らしていた。





 一週間後。
 俺は枕に顔を埋め、ベットに身体を横倒しにして泣いていた。豆電球だけが点いた、薄暗い自分の部屋で一人で。
 ただ自分の情けなさに涙が溢れてくる。覚えのあるひきつるような痛みはもうどうでもよかった。
 二週間前、今まで生きてきて最も恥かしいことをしてしまった、と思った。だけど今の俺に比べればたいしたことじゃない。一度した失敗をもう一度繰り返す方が、もっと情けなくて恥かしいことだと思うからだ。
 一週間後と、中嶋さんは言った。そう約束してくれたのに。
 抱いてくれるって、あと一週間我慢したらって言ってくれたのに。
 なのに…散々マジックや指を入れられてふやけてしまったあそこは、一週間待つことができなかった。中嶋さんの指の感触が身体に焼き付いて、どう振り払っても忘れられなくて。
 シーツには、二週間前と同じマジックと、血がついたティッシュが転がっている。
 また同じことをした。耐えられず、また同じマジックを俺は自分で入れてしまったんだ。 …だって、もう何が入っても大丈夫だと思ったんだ。
 なのにどうして、俺がやったらまた切れるんだよ…っ!

  コンコン、とドアがノックされて飛び起きる。その覚えのある音は間違いなく…。
 ざああ、と血の気が引いていく。また傷つけてしまった事を中嶋さんが知ったら…。
 治してやったのに、と嵐のごとく激怒する姿を思い浮かび、それだけで漏らしそうになる。もちろん当然のごとく『ご褒美』はおあずけだ…。


 …この事態から逃れる方法があったら、誰か俺に教えてほしい――――