++ジェリーヒップ++  中編



  中嶋さんの部屋のドアの前で立ち尽くしたまま数分。何度もノックしようと手を上げるけれど叩く勇気がどうしても出てこない。

 俺は、左手に軟膏を掴んだまま、風呂で念入りに洗いすぎて赤くなっている身体で、これから自分の身に起こることをシュミレーションしてはますます怖気付いていた。
 …これから、一体俺は何をされるのだろう。
 薬を塗るだけで本当に済むのだろうか。…あの、中嶋さんが…。
 それよりも…何故こんな事態になってしまったんだ?
 昨日の夜、俺は中嶋さんにみっともない尻の傷口を見られてしまった。中嶋さんは中まで薬を塗らないと化膿すると言って脅し、自分で薬を塗れないなら代わりに塗ってやろう、と強引に押し切られた。あの時は俺の身体の事を心配してくれているのだ、と素直にうれしくなっていたけれど、妙な笑顔を浮かべていた中嶋さんは、心配しているというよりこの事態を楽しんでいるように今は思えてくる。
 そういえば、新学期が無事に始まってから、学生会は珍しく暇していて、何かおもしろいことはないかって王様が呟いていたっけ。何も言わない中嶋さんも、何か事件にありつこうと探しているような節があった。
 そして、待ちに待ったといえる、今の俺の状況。
 もしかして、俺って中嶋さんの暇つぶしに利用されてないか?
 …あれから何度も想像してみた、中嶋さんに薬を塗ってもらうところを。
 そこで初めて気が付いたんだ。もしかしていろんなことをされるより恥かしくないのだろうかという事を。高校生の男として最もみっともない行為ではないだろうか。年上とはいえ、同じ高校生の男に…痔の薬を塗ってもらうなんて。
 何故自分で薬を塗れる、と言えなかったんだろう。中嶋さんに塗られるぐらいなら、我慢して自分の指を中に入れることだってできたはずだ…!
 だけど、今更どんなに後悔したって無駄だった。断ったら中嶋さんに更にどんな仕打ちにあうか…いや、力づくでも塗られるに違いない。だからせめて、早く終わるように中嶋さんの指示に素直に従うしかない。
 といいながら…いろんな事態を想定して隅々まで身体を洗ってきてしまう俺も俺だよな…。
 大きな溜息をついたその時、ガチャ、と目の前で大きな音がした瞬間、頭に激痛が走り呻いてしまった。
「…いつまで立ってる」
 ドアの角が額にまともにぶつかり、その痛みで声も出せない。中嶋さんは無言で隙間からちらりと顔を覗かせたと、ドアはそのままで中に入っていった。俺がドアの前で立ち往生しているのを気付いていたらしい。
 涙を溜めて額を摩りつつ、自然に部屋の中に導かれて入ってしまった。
 中嶋さんは机で何か作業をしている途中だったのか、立ち上がるために動かしていた椅子にもう一度腰かけて、開かれていたノートパソコンに向き直る。すぐにキーボードを打ち始めたので、俺はどうしていいかわからず部屋の入り口でぽかんと突っ立っていた。昨日の楽しげな中嶋さんとはうって変わって、いつもの冷静で無表情な横顔。
 なんだか拍子抜けしてしまった気分だ。
 もしかして、何を約束したのか忘れてくれたのかな…といいように考えてみる。このまま帰ってしまってもいいのかもしれない。そう思って体を反転させようとしたら、感情のこもらない「早くしろ」という声が振ってきて体が止まってしまう。
「こっちにこい」
 そっと振り向くと、中嶋さんはパソコンの画面から目を離さず、キーボードの打ち続けたままで、俺は恐る恐る中嶋さんの机に近づいていった。
 座っている中嶋さんの右横に立っても作業を止めようとせず、なんとなく画面を同じように見つめていたら、突然タイピングを止めてちらりと俺を見た。
「何やってる、早く尻を出せ」
 思わず一歩下がってしまった。うわ、やっぱり覚えてたんだ…!
 だけどこの状態でどうやって尻を出せばいいのかわからなくて、言われたのに何も動けないでいると、今度はぐるりと椅子ごと身体を回し俺に正面に向き直った。
「…薬は」
「は、はい」
 素直に左手に持っていたチューブ式の小さな軟膏を渡す。
「後ろを向いて尻を出せ」
 まるで医者と患者のようだな、と頭の隅で思ってしまった。学生会で作業をする時と同じ理性的な声だったから、不安で怖気づいていた気持が少しだけ緩んで、俺はゆっくり中嶋さんに向かって背中を向き、パジャマのズボンを脱いで、下着を足首まで落とした。
 下半身が外気に晒されて、遮るものがなくなったそこは生暖かい空気に撫でられているような感触がする。とたん恥かしくなってきてどうすればいいかわからない。
「それじゃあ見えないだろう」
 もっと尻を突き出さないと見えないのはわかってる。だけどどうしても恥かしくて躊躇ってしまい動けない。顔が赤くなっていくのと同時に、体温も上昇している気がする。
 動けないままじっとしていると、背後で椅子を動かす音とすぐにキーボードを叩く音が始まり、驚いて振り向くと中嶋さんはまたパソコン画面に視線を戻していた。
「……あ、あの……」
「……やる気がないなら帰れ」
 突然突き放されて、冷静な顔をして画面を見る中嶋さんから目を逸らしてしまう。中嶋さんから塗ってくれるって言ったのに、どうしてこんな言い方されなきゃいけないんだよ…。ぐずっている俺の気持だって察してほしい。
 俺は、もう一度中嶋さんに背を向けて、覚悟を決めてゆっくり、中嶋さんに向けて尻を後ろに出していった。どこまですればいいかわからず、中嶋さんも指示してくれない。無視されているところを見るとまだダメだってことなのかと、ますます恥かしさに顔を赤くしながら、もうすぐで前に倒れるんじゃないかと思う所まで尻を突き出した。
 その時、やっとキーボードを打つ音が止まって、椅子が回る音が聞こえた。視線を感じて逃げ出したくなるけれど必死で留まり、そのまま動かずにいると、ひんやりとした手が俺の左の尻に触れて驚いて体を引いてしまう。
「動くな」
「…で、でも…っ」
 大きな手が尻を包んで、開かれる。尻のそこが完全に晒されているのだと思うだけでいてもたってもいられない。足を動かして逃げ出してしまいそうになるのを必死でこらえる。
「っ、ぅあっ」
 いきなり中心にぬるっとしたものが触った。生暖かいもの。指先につけられた薬だ。穴の周りをぬめった指がゆっくり撫でていく感触に尻が大きく震えてしまう。薬を塗ってもらっているんだってわかっていても、中嶋さんにそうされていると思うと、どうしても反応してしまう。
 何本かの指の腹で今度は穴の周りを押された。何度もゆっくり、マッサージするような動きだ。きっと傷口を探っているのだと思うけれど、優しすぎる動きはますます薬を塗る行為以外を想像してしまい、声が上がりそうになるのを誤魔化すために大きく息を吐いた。
 指の腹が穴の入り口で止まる。入れられる、と思い体が強張るけれど、そのまま動きが止まり、入り口の襞を開くように回されてたまらず両手で口を押さえた。
 ある部分の襞に少しだけ痛みがあったけれど、薬のぬめりでそれほど痛くはない。
「…力を抜いておけよ」
 くすぐるような柔らかい動きから、固く意思を持って、中に押し入ろうと動き始めた。
 指が…中嶋さんの、指が…入ってくる…っ。
「ぅ…あ…」
 身体の力を抜きたくても、異物を出そうと身体が強張ってしまい尻を締め付けると、鋭い痛みが走って背中を仰け反らせてしまう。なのに中嶋さんは挿入を止めず、薬が塗られているせいで驚く程すんなりと指が中に入ってくる。
 気持悪い。ぬるぬるしたものが内壁を擦っていく。
「く…っ」
 中嶋さんの手は大きくて指も長い。多分一本だけしか入れられていないのに圧迫感がある。薬を擦り付けるように細かく混ぜられるような動きに合わせて、無意識に腰を揺らしてしまう。
 別にいやらしい動きじゃないのに、俺一人で違うことばかり考えてるのが恥かしい。全身が熱くて、汗が噴きだしてくる。
 初めて感じる、中嶋さんの指。触られたことはあったけれど、中にまで入れられたことは多分なかった。なのに入り口だけは散々いろんなことをされて…。いつの間にか俺は、中まで中嶋さんで満たしてほしいと切望するようになっていた。
 今入っているのはペンなんかじゃない、中嶋さんの指なんだ…俺の身体を撫でてくれる、あの綺麗な、長い指…。
 だめだ、そんな事を考えていたら、体がおかしくなる。
「…ぅ―――」
 思わず指を締め付けたその時、指がゆっくり引き抜かれていき、そのぞわぞわとした感触に背中がひきつった。小さな音を立てて中嶋さんの指が完全に抜かれ、とたん足の力が抜けそうになってよろめいてしまう。ずっと空気をまともに吸っていなかったのか息が荒い。
「終わりだ、また明日忘れずに来いよ」
 そう言うと同時に椅子が動く音がして、見ると中嶋さんはティッシュで指を拭い、何事もなかったような平然な顔をして再びパソコン画面に視線を戻していた。
 俺はあっけにとられてしばらく呆然と中嶋さんを見つめてしまう。
 …これで、終わり…?
 本当に塗るだけだった…のか。
 放り出された自分の格好に気が付いて慌てて下着とズボンを履いて、何も言えないまま中嶋さんに向かって頭を下げた。
 変な期待をしていただけ、ちょっとショックだった。期待する方が間違っているんだけど…。俺一人ドキドキしていて、なんだかバカみたいだ。
 俺はそそくさと中嶋さんの部屋を出た。尻の中がぬるぬるして歩く度に違和感があるけれど、考えまいと努めた。



 それから一週間。
 俺は中嶋さんの部屋に毎晩通い、何をしていたかというと…尻に薬を塗ってもらっていた。
 毎晩同じように尻を差し出して、冷静さを崩さない中嶋さんが薬を塗った指を中に入れる。それだけなのだった。
 消灯時間を過ぎているわけでもないのに、こっそりと自分の部屋を抜け出し、こっそりと帰ってくる。だって、中嶋さんに痔の薬を塗ってもらいにいくなんてバレたら、恥かしくってこの学校にいられないよ。付き合っているってバレるより恥かしい。
 なのに、一日も欠かさず通っている俺も俺だよ…。
 しかも毎回緊張してしまい、何もされないってわかっていても身体が反応してしまうのはどうしようもなく…なのに中嶋さんはそんな俺を無視し続けている。きっと気が付いているに違いないのに…それが恥かしくて仕方がない。
 傷の方は、痛みは大分和らいだけれど、完治するまでには至っていない。


「…治りが遅いな」
 一週間を過ぎて、同じように椅子に座る中嶋さんの前で下の服を脱いで、尻を中嶋さんに見せていると、それまで必要以上の言葉を発することがなかった中嶋さんがそう言った。
「…また一人でやったりしてないだろうな」
「そ、そんなことしてませんっ!」
 振り返って叫ぶ俺をちらりと見て、小さな声で疑わしそうにふぅん、と呟くと、机の引き出しから何かを取り出した。
「薬の効きが悪いのかもしれないな、薬を変えてみるか」
 そう言って手にしたのは、いつもの軟膏より少し大きめのチューブだった。俺はまた中嶋さんに背を向けて尻を出す。
「…っ!」
 中心にいきなり冷たいものが当たって驚いて身体を捩った。
「つ、つめた…っ」
 逃げようとする腰を掴まれ、指を挿入される。傷がよくなっているのか、慣れてしまったからなのか、指を入れられる痛みは殆どなくなっていた。ぬるりといきなり奥まで入れられて、冷たいのと擦られる感触で息がつまる。ぐるりと回されて湿った音がした。
 前の薬と全然感触が違う。入れられてしまうと冷たささがいつの間にか消えて、逆に熱を持ち始めてきたような気がする。
「…な、な…に…っ」
 熱い。壁も入り口も何もかもが熱を持ち始めて、じわじわと中を犯していく。
「少し効き目が強い薬だからな。沁みるかもしれないが我慢しろ」
 沁みる…?これって傷口が沁みているからなのか…?
 指を引き抜かれて、今度ばかりは腰が抜けてへたりこんでしまった。抜かれてもまだじくじくと熱い。傷口なのか中全体なのかわからない、どこかが勝手に収縮を繰り返している。
 もちろん、前は今まで以上に反応していて…。
「毎日毎日…飽きもせずよくそこまで立たせるものだな」
「な…っ!」
 しゃがみこんでいる俺の背後から笑いを含んだ声がして、振り仰ぐと口の端を吊り上げた中嶋さんが俺を見下ろしていた。
 中嶋さんはやっぱり反応してしまう俺を知っていてわざと無視していたんだ。信じられない。俺をこんなふうにしておいてそんな事を言うなんて…!
 俺はふらつく足に力を入れて立ち上がった。くやしくって涙が出そうだけど必死でこらえる。急いで服を着て出て行こうと歩き出した。何か言われるかと思ったけれど、結局何も言われないまま、俺は部屋を出た。

 怒りは自分の部屋に戻ると次第に落ち着いてきた。くやしさは消えなかったけれど。
 それよりも、その代わりじわじわと身体を支配するものがある。それが気になって、ベットにうつ伏せになったままちっとも寝られなくなっていた。
 …一体、どんな薬だったんだよ…っ。
 まだ、塗られた薬が熱を持っている。いや、さっきよりももっとひどくなっている気がする。中嶋さんの長い指で、きっと奥の方まで塗られたんだろう、その奥から入り口まですべてが熱くてむず痒い。尻を動かすと傷口が擦られるのか、まるで中嶋さんの指がまだ入っているような感触が沸き立ってきて無意識に尻を揺らしてしまう。
「……ふ…っ」
 うつ伏せになっているせいで固くなってしまった前がシーツに圧迫されてきて、そっと横向きになる。
 …どうしよう…治まらないよ…。
 今までは、塗られながら反応しても部屋に帰って自分ではしなかった。次の日に中嶋さんに自分で処理したことがバレそうで怖かったから必死で我慢してたんだ。だけど、何故か今日は全然治まってくれなかった。今まで我慢していた欲望が一気に噴き出したようだった。
 風呂に入って着替えたばかりなのに…もう下着を濡らしている。先端に当たる布がぬめっているのがわかる。
 そっと左手でズボンをずらしてみた。反り返ったそこはもう触れれば爆発してしまいそうなほどで。ここまで反応していたら、もう後戻りはできない、治めるには…出してしまった方が早いことはわかってる。
「……っ」
 右手で握ってみた。頭の芯まで痺れるような快感が襲い目尻に涙がたまる。足を曲げて丸くなり、そのまま俺はそこを扱き始めた。
 中嶋さんの指の感触を思い出しながら。頭の中で中嶋さんという名前が出てくるだけでも、背中に快感が沸き立ってくる。
「…な、…かじま…さ…っん」
 口に出してその人の名前を呼ぶと、いたたまれない気持になるのに…尻の熱が前に伝わり、先端からどっと透明な液が溢れて指を濡らす。自分で立てる濡れた音にさえ興奮してしまい、止まらない。
 後ろを弄りたい…真っ白になった頭の中でその思いが強くなる。
 でも…ダメだ、きっと触ったりしたら中嶋さんにバレてしまう。一人でこんなことをしているのだってきっと知られてしまうのに、そしたらまたひどい事を言われてしまうのに。
 左の手が尻の中心を探る。
 ダメだって思っているのに、身体が止まらない。
「…っ」
 入り口に指先が触れた。痺れてて…薬が少し出ているのか濡れている。塗ってもらう時の中嶋さんの冷たい視線を背中に感じる。
「…あ……ぁ…っ」
 初めて自分の指を入れたというのに、どうしてこんなに気持ちがいいんだよ…っ。
 俺は、指の一関節も入れられないまま、右手の中に全てを吐き出していた。


 次の日、中嶋さんの部屋に行くかどうか迷ったけれど、結局いつもと同じようにドアをノックしていた。ひどいことを言われたけれど、行かなければそれが原因だと思われるのがくやしいからだ。
 だけど、服を脱いで中嶋さんを背にして立ったとたん、昨日自分でしたことがバレるんじゃないかと怖くなり、いつものように尻を後ろに出せないでいた。
「…おい、治したくないならそう言え」
 中嶋さんのいらついた声に身体が強張る。バレるよりも、怒られる方がもっと怖い。俺はゆっくり尻を動かしながら言った。
「…あの…、薬…前のに戻してもらえませんか…?」
「…何故だ」
「……ちょっと…い、痛い…んです…」
 元に戻してもらえれば、昨日のようにおかしくなったりしないかもしれない。ぐい、と尻を広げられて恥かしくて目を閉じる。見られるのに慣れれば少しは気持が楽なのに。
「痛い?治りかけているからだろう」
「……でも……っ、ぅあっ」
 いきなり薬で濡れた指が入ってきた。冷たい感触でまた同じ薬だということがわかる。昨日の熱さがまた蘇ってきて逃げ出そうと尻を引こうとしても、中嶋さんのもう片方の手で腰を掴まれて動けない。
 何も中嶋さんの動きは変わらない。なのに、俺の身体がおかしくなってる。昨日一人であんなことをしたから、中嶋さんの指を想像しながらしてしまったから。
「……ん…く」
 気を逸らそうとしても、ただ薬を塗っているんだって思い込もうとしても、どうしても身体が言うことを聞いてくれない。
 だめだ、中嶋さんが変に思うよ…っ。そしたら昨日のことがバレてしまうっ。
 俺は腰を掴んだ中嶋さんの手を掴んで引き剥がそうともがいた。
「も、もういいです、自分でできますから…っ!」
 一番奥まで入っていこうとしていた指が止まり、そのままで中嶋さんがくく、と笑った。
「…自分で?何だ、まさか自分で入れてみたのか?」
「し、し、してませんっ」
 墓穴を掘ったことに気付いて、焦って首を振って否定するけれど中嶋さんが信じてくれるわけもなく…。
「…面白いやつだ」
「ほ…ほっといて下さいっ」
 ぐり、と指をねじられて声がつまる。 
「…普通の薬だと思っていたのか?」
「……え…」
 振り向こうとしたら、一気に奥にまで指が入ってきて仰け反ってしまう。
 今、中嶋さんは何って言ったんだ?
 薬…普通の薬だと思ってるのかって、じゃああの薬は違うっていうのか?じゃあ、一体何の薬だっていうんだよ。
 …まさか、あの変に熱くなったのは、身体が疼いて仕方なかったのは…。痔の薬なんかじゃなくって、いやらしい変な薬だったのか…?
「…中嶋さ、ん…っ」
 内壁に塗られた薬が、また一気に熱を持ち出してくる。
「中嶋さん…っ!」
 何度読んでも返事はない。指がゆっくり引き出されて、また入ってきては壁を擦っていく。何度もそれを繰り返され、ますます薬が中に染みわたっていく。いつもよりも中を探られるように動かされて、手で口を塞いでも声が漏れてしまう。
「傷は治りかけてるな。あと二日は自分で塗って三日後に部屋に来い。治ったか見てやるよ」
「…う…っ、く…」
 指が、いつもは中嶋さんはそこを刺激してこないのに、一番敏感な所を押さえてきて無意識に身体がびくつく。
 これ以上されたら中嶋さんの身体に縋り付いて、お願いしてしまうかもしれない。もっとしてくださいってねだってしまうかもしれない。
 尻が指を追いかけて動いてしまう。薬のせいだ。きっとへんな薬がそうさせてるんだ。
 いきなり指を引き抜かれて、前のめりに倒れた。床に固く強張っていた袋が当たって、涙をこらえて痛みに耐えていると、後ろでさっきよりも大きな声で中嶋さんが笑い出した。
「冗談だ。ただの痔の薬だよ」
 床に薬が放り投げられ、手を突いた床のすぐ側に落ちる。
「扱きながらするのも、素っ裸でするのも自由だが…ちゃんと塗ってこいよ」
 違う涙がこみ上げてきそうになり、歯を食いしばって堪える。
 手の横に落ちた薬は、本当にただの普通の塗り薬で…。
 信じられない、なんて人だよ…っ。俺をバカにして遊んでるんだ…!
「も、もう、俺…来ませんから、絶対にもう来ませんから…っ!」
 ふぅん、と楽しそうな声が声が聞こえる。
「好きにすればいい。これでご褒美はなしだな」
「そんなものいりません…っ! 」
 薬を掴んで立ち上がり、俺はまだ小さく笑っている中嶋さんを見ずに部屋を飛び出した。
 もう…もう絶対に部屋になんか来るもんか…!







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