■白濁チョコレートvol,5■


  固まりきらないチョコを持って、俺もテーブルの上に乗った。
中嶋さんは俺を待っていた時のように完全にテーブルの上に乗りあがり、
両手を後ろについて少し状態を後ろに傾かせて足を投げ出している。
俺は足を広げて中嶋さんの腰の上あたりに跨る。
大きな中嶋さんの身体を跨ぐ為には結構大きく足を広げないといけなくて、
ボタンのないシャツは至近距離にいる中嶋さんから何も隠すことができない。
俺の身体を支えるのは膝だけだ。
少し腰を落とすだけで中嶋さんの逞しい太腿に触れそうになる。
もし座り込んでしまったら、俺がさっき咥えようとしたそこに俺の股間が密着してしまうだろう。
ここでもし俺が出してしまうことになったら、中嶋さんの服を上下共汚してしまうことは絶対に避けられない。
もし汚してしまったら…どんなに怒られるか想像するだけで身震いしてしまう。  
この格好のまま食べてもらわないといけない。
  中嶋さんが手を出してくれる気配はない。 チョコは全然固まっていなくて、
だからってさっきみたいに指に塗って舐めさせるなんてこと、刺激が強すぎてできない…けれど、どれだけ悩んだってそれしか方法は見つからなかった。
  大きく息を吐いて気持を落ち着かせてから、皿にのったチョコレートひとつを掴んで持ち上げた。
「…わっ!」
  胸の辺りにまでうまく持ち上げられたと思った時、指の間でぐにゃりと潰れる感触がしてチョコが落ちそうになり、慌てて手をひっこめると、中嶋さんの服に落ちなかった代わりに俺の胸の上のあたりからへそにまで垂れ落ちてしまった。
「す、すいませんっ」
 もう一つを急いで取ろうとすると、その腕を掴まれた。
「おもしろい趣向だな」
  小さく笑って中嶋さんの上半身が俺の身体の方に傾き、胸のあたりに中嶋さんの頭が近づく。
「な、中嶋さんっ?」
  舌を出して、中嶋さんがいきなり俺の胸にかかったチョコをゆっくり舐め上げた。
「―――っ!」
  突然のことにびっくりして声が出ない。
もう一度舐められる。
舌が乳首を掠めていき身体がすくむ。
「ちょ、ちょっと…な、中嶋さんっ…やめて下さい…っ」
  中嶋さんの頭を両手で掴んで引き剥がそうとしても力が入らない。
指を絡ませてるその髪を見て、本当に中嶋さんが身体にかかってしまったチョコを舐めているのだ…そう思ったら痺れてくるような快感に襲われる。
舐める濡れた音。
零れたチョコに沿って、舌が這わされていく。
「う、あ…っ」
  乳首には触れない、触れるぎりぎりの所まで舐められる。
息が掛かるだけで声を上げてしまい口を噤もうとするけれど、漏れてしまう声は止められない。
掴んだ中嶋さんの髪が俺の首筋に触れている。
時々冷たい眼鏡の縁が俺の胸に当たるだけで興奮する。
固く尖りきった乳首に舌先が触れたとたん、身体が大きくぐらいついた。
「ぁあっ」
  強く押しつぶしながら舐め上げられ、いきなりの強い刺激に中嶋さんの頭を抱え込んでしまう。
乳首にかかったチョコを丹念に舐められて、その舌の動きに合わせて体を揺らした。
中嶋さんに胸を舐められることに慣れてなかった。
何をされても慣れるなんてきっとないと思うけれど。
だけど乳首は以前に散々弄られたせいで、刺激に弱くなりすぐに反応してしまうようになってしまった。
歯で弱くかじられ、立ち上がりきった俺のそこから熱いものが溢れてくる。
どんどん溢れてきて、止められない。

 もう、どこまで耐えられるかわからないっ…。
俺は必死になって懇願していた。
「も、も…、ダメです、俺…っ!」
  何度言っても無視されてしまう。
そう、俺は絶対にもう出さないって約束したんだ、もう根を上げてしまうなんて許してくれるわけない。
でも、もう自分の力では止められそうにないよ。
「お、お願いします…っ、紐、あの紐で…結ばせて、下さいっ」
中嶋さんの動きが止まって俺を見上げ、いじわるそうな笑みを浮かべた。
「…だから言ったろう」
だって、こんなことをされるなんて思ってなかったんだって…いいわけしたかったけど。
俺は渡された白いリボンを、濡れそぼる亀頭の下のくびれにそっと巻きつけた。
敏感なそこはその感触にさえひくついて、出てしまうんじゃないかと緊張する。
一重にして縛ろうとすると、中嶋さんに一重じゃ弱いから何重にも巻きつけるように言われた。
圧迫されるような感覚に手がうまく動かなくて、巻きつけたまではよかったけれど、うまく結ぶことができない。
「や、中嶋さん…っ!」
  中嶋さんがリボンの両端を奪って結び始め、俺は腰を引こうとする。
だけどそこが引っ張られていく痛みに、少しも動くことができない。
「ぁ…ぁ…っ」
  リボンを結ぶ手が時々そこに触れていき、ぞわぞわと快感が湧き上がってくる。
きつすぎはしないけれど、多分このままじゃあ射精することはできないだろう。
「…啓太、この紐が何かわかるか」
  快感を感じまいと身体を固くさせて目を閉じている俺に中嶋さんが囁いた。
「…わ、わかり、ません…っ」
「さっき俺に渡しただろう」
  その言葉に驚いてもう一度そのリボンを見ると、確かに見覚えがある。
俺が俊介に頼まれて中嶋さんに渡した、知らない人のチョコレートの包みに結ばれていた、あのリボンだった。
「啓太のこんなところに結ばれて、さぞかし本望だろうな」
  くく、と楽しそうに笑うけれど、俺は恥かしさにいたたまれない気持になる。
「…いい気味か?」
「そ、そんなこと…っ」
  ぶんぶんと首を振っていると、中嶋さんが手を離した。
恐る恐るそこを見ると、綺麗なリボン結びがくびれの部分に出来上がっていた。
自分のそこが…白いリボンで縛られている。
その歪さと恥かしさに…そして。
 はしたなくまた…更に反応しているそこに、眩暈がした。

「…しっかり食べさせろよ」
  全部食べてもらうまで、このリボンは外せない。
「身体に塗れ、それなら不味くても食える」
  今の俺にとっては拷問のような要求。
だけど俺は抗うこともできず、残った二つのチョコを取り、自分の身体にかける。
それを中嶋さんが舐めていく。
気持ちよくて気が変になりそうだからこそ、それは拷問だった。
リボンで締め付けられたそこはどんどん膨らんでいく。
いきなり中嶋さんの両手が俺の腰に触れた。シャツの中から、素肌に。
「ぁ…っ」
  俺の脇のあたりのチョコを舐めながら、大きな手が双丘にゆっくりと降りてきて、尻にたどりつくとじわじわと力を入れて掴まれる。
「ぁあ…っ」
  体が痺れるような快感。
そしてその刺激に、前にもこうされたことを思い出していた。
学生会室で、俺はこうやって尻を掴まれて…俺は1人でイってしまったんだ。
思い出すだけで恥かしくなり、ますます何も考えられなくなる。
なのに、中嶋さんは掴んだ手で俺の尻を円を描くように動かし始めた。
「…っ、いゃ…っ、だ…ぁっ」
  長い指がくいこみ、尻の中心に…指先が触れそうになっては離れていき、その度に体が跳ね上がる。
少し触れられただけなのに、後ろに意識が集中してしまうなんて、俺きっとどうかしてるんだ。
細かく揺さぶられて中嶋さんの腕をつかんで身悶えた。身体に力が入らない。
  とたん、身体を支えていた膝の力が抜けて、中嶋さんの逞しい足の上に乗ってしまい太ももが密着した。
濡れきった俺のそこが、中嶋さんの腹のあたりに布越しに触れそうになって慌てて腰を引いた時、俺の股の間に熱いものが食い込んでくる。
熱くて、とても硬いもの。
驚きすぎて声が出せない。
中嶋さんのそこが、俺の尻の間に入り込んだのだ。
肉…熱くて硬い肉の棒が俺の尻を押し上げてくる。
「っ!!ぃ…!」
  その衝撃に俺は身体を反り返させた。
必死になってもう一度膝で立とうと力を入れてもちっとも動かなくて、 尻に力が入ることで ますますその形を感じてしまい、そこから逃げ出せない。
強い刺激に息をつめて硬直する俺の腰を、中嶋さんは両手で掴んで更にその上に密着させた。
「ぃや、だ…っ!」
  もがけばもがくだけそれが食い込んでくる。
尻を動かすと挟み込んだそれを擦っていき、その異様な感触に息を飲んだとたんだった。
「ぁあ―――」
  いきなり腰を前後に揺らされて、俺のそこ…袋の裏側から尻の穴にかけて、中嶋さんの熱い肉塊が押し上げるばかりの強さで行き来して、俺は…殆ど悲鳴に近い声を上げた。
形がわかる。中嶋さんのどこがどう動いて、俺のそこを蹂躙しているのか。
「ひ…っ、ひ…っ」
  中嶋さんの肩に手を置いてもたれかかり、俺は我を忘れて喘いだ。
それが泣き声になるのに時間はかからなかった。
痛い。限界まで膨らんだそこが締め付けられる痛みに涙が溢れるのに、
尻のそこを中嶋さんの先端が擦っていく度、尻に力が入ってそれを締め付けてしまい、止められない。
イくことができず、絶頂が永遠に続くような寒気がするほどの快感に喉がひくつく。
はちきれそうに固く立ち上がったそこから、絶え間なく透明な液体が溢れてきて袋の裏側まで滴り、濡らされてぬめった中嶋さんのそこがますます滑りをよくして尻の間で大きな音を立てる。
その濡れた音を聞くだけで恥かしさに気が遠くなりそうで。
「…あと一つだ、我慢しろ」
  遠くの方で声が聞こえる。まともに聞けない俺の口の中に甘いものが広がった。
もうそれがチョコだということにも気が付けない俺の頭を中嶋さんが掴んで、引き寄せられる。
唇を塞がれ、中嶋さんの舌が入り込んだ。
口の中でどろどろになった甘いものを奪っていく。
俺はその舌に自分のそれをからみつかせ、吸っていた。
中嶋さんに抱きついてキスしながら、そこを締め付けていたものが中嶋さんの手で解かれていくのを感じる。
唇が離れていくと、熱っぽい目をした中嶋さんが囁いた。
「自分でイけよ。見ていてやる」
  もうためらいはなかった。中嶋さんのそこをもっと感じようと自分から腰を前後に揺らし、中嶋さんの服に零さないよう両手でそこを握り締めて扱き始める。
「ぁ…っ、あ…っ」
  リボンを解かれたそこは、俺の両手でも指の間から溢れるほど濡れきっていて、 尻の間よりも大きな濡れた音をたてる。
くびれの下の辺りには段差がついていて、赤くなっていて少しまだ痛い。
だけどその痛みさえも快感にすりかわる。
俺の尻に挟まれた中嶋さんのそこも、更に固く大きくなっているような気がして、
ますます腰を揺らすのを止められない。
「そんなに尻がいいのか?」
 首を振った。
もちろんそれもある、けれど。
「う、れしい、から…っ、中嶋さんのも、大きく…っ」
  中嶋さんが俺ので気持よくなってくれること、それが一番うれしかった。
まだ俺の手でちゃんと中嶋さんを最後までイかせてあげたことがないから、それだけでもうれしくてたまらないんだ。
  その言葉を口にしてからはもう、俺は自分の行為に夢中になってしまい、中嶋さんが熱を帯びた目でそこを見つめているのを感じてますます高ぶっていきながら、絶頂に上り詰める。
尻に力が入って、太ももごときつく中嶋さんのを締め付ける。
「あ…っ、な、かじま、さん…っ!」
  扱く両手を掴まれそこから外され、中嶋さんの服が汚れると思っても、もう止めることはできなかった。
中嶋さんの先端が尻の入り口に擦り付けられ、こみあげる絶頂感に頭が真っ白になる。

  目を閉じる直前、涙でぼやけて見える中嶋さんの顔が、今まで見たことのない表情をしているのを見た。
その瞬間、俺の尻に熱湯が浴びせられた…そう思った。
それが何か、そう思う前に身体が反応していた。
「――――っ!!」
  声にならない悲鳴を上げて、俺は中嶋さんの腹に向かって射精した。
最後に頬を流れていく涙は我慢していたからでも、快感のためだけでも…なかった。

 ――――中嶋さんがくれたものは、俺に少しだけ…自信を取り戻してくれた。


 


 結局、俺と中嶋さん、2人して服も体もいろんな液体で汚したけれど、中嶋さんは俺に何も責めなかった。
だって、俺も…中嶋さんにシャツを汚されたから。
 テーブルや床を拭いている間ずっと、にやけた顔を治せと中嶋さんに睨まれて叱られても無理だった。  

 朝方、部屋に戻る間際に中嶋さんが俺に言った。
「あのチョコの包みを開けてみろ」
「え…?で、でも…」
「交換したからあれはお前のものだ、見ればいい」
  俺はわけがわからないまま、去っていく後姿を見つめた。
なんだろう、本当に…俺が勝手に開けてしまってもいいのか…?
部屋に戻って机に置かれたままの、例の俊介から頼まれたチョコの包みを見つめる。
………輪ゴム?
よく見ると、白いリボンが解けたそれには、輪ゴムがかかっていた。
リボンに重なって見えなかったんだ。
気が動転していてよく見えなかったけれど、包装紙の包み方も乱暴だった。
俺は一気にその包みを開いた。
「……なんだこれ…」
その中にあったのは、箱にも入っていない裸のままのCDが3枚。チョコじゃなかった。
どうしてCDなのか、それが何なのか全く意味がわからなくて、月曜日になったら中嶋さんに聞いてみようと思い、そのままベットに突っ伏して眠り込んでしまった。





 月曜日、授業が終わって学生会室に入ろうとすると、部屋の中からめずらしい声が聞こえてきた。
俊介だ、なんだかせっぱつまったような声に聞こえる。
また俊介が苦手な中嶋さんにつかまったのかな。
そっとドアを開けると、俺が俊介を見つけるより先に俊介が俺に気づいて駆け寄ってきた。
「啓太っ、あん時はすまんかったな、悪気はなかったんやっ!」
「え、えっ?」
「丹羽にどれだけ報酬をもらった、滝」
  部屋の奥にはやはり、腕を組んで俊介を睨みつけている中嶋さんが立っていた。
「会長に頼まれたら逆らえるわけないですって!いくら副会長と契約してることでもしゃーないんです、わかって下さいよっ」
「ほう…お前が報酬以外に断る理由があったのか」
「会長に聞いて下さい、俺は頼まれただけですからっ!」
  そう俊介が怯えながら叫ぶと、俺に両手を合わせて謝るポーズをしてそのまま学生会室からすごい速さで出て行ってしまった。
  しばらく呆けてしまった後、機嫌の悪そうな中嶋さんに恐る恐る声をかけた。
「あ、あの…どうかしたんですか…?」
「あいつは俺との契約を、丹羽の賄賂につられて破った」
「契約…?」
「…あの中身を見たか?啓太」
  いきなり話をふられて、俺こそそれについて聞こうと思っていたので鞄の中からCDを取り出した。
「あの、これが入ってたんですけど…これは何なんですか?」
「4月からの新入生の全データだ」
「え?」
「下手すれば徹夜が一週間は続くだろう仕事だ」
  詳しく聞くと、今年4月の新入生の入学準備、それは寮の手配から案内、教室、クラブ、新入生の生活すべてに至る膨大な仕事のための資料だったのだ。
でも、何故そんなものが中嶋さんにあんな奇妙な形で渡されたんだ?
学生会の仕事だったら始めから中嶋さんが持っていてもいいはずなのに。
「どうしてこんなものが…?」
「丹羽が消えた」
「……え?」
「まあ1週間は見つからないだろうな…そういうことだ」
  え…え…えええっ?
じゃ、じゃあ、このCDは王様からだったのかっ?
王様が俊介に頼んであんな手の込んだやり方をして、中嶋さんにすべての仕事をおしつけようとしたのかっ?
確かに、まともなやり方で中嶋さんに渡したって、きっと中嶋さんはその場で王様を捕まえて何が何でも離さないだろう。
だからといって学生会室に無防備に、こんな重要な資料を置いたままにもできない。
だから王様は自分じゃない誰かから、手渡しで中嶋さんに渡そうとした。
「丹羽は啓太からだったら必ず受け取ると踏んでいたようだな…事情を知ってか知らずか」
  俺は何も知らず、素直に中嶋さんに渡した、そして中嶋さんは王様の予想通り受け取ってしまった。
つまり俺も王様に利用されたったってことか…?
「始めから中身の予想はついていた。俺にチョコなど届くわけないからな」
  その言葉に中嶋さんをまじまじと見つめてしまう。 始めから知っていたってそれは俺が渡した時ってことなのか?
「知っていたのなら、どうして受け取ったんですかっ?」
「うじうじ悩んでる啓太がおかしくてな」
  絶句してしまい、ぱくぱく口を動かすことしかできない。
じゃあ、じゃあ、俺があれだけ悩んで、夜中まで頑張ったのは…一体なんだったんだ?
頭に血が上ってきてCDを持つ手が震えてきた。
「…気づかない啓太が悪い」
  怒りで顔を赤くさせていると、中嶋さんが淡々とそう言い放って俺は言い返した。
「そんなの…そんなのっ、わかるわけないじゃないですか…っ!俺、てっきり…っ」
  本当にライバルがいる、と思ったんだ。 だからあんなに必死になってしまったのに。
「だが、そのおかげでいい思いをしただろう?」
  中嶋さんが楽しそうに、あの時の食堂での事を思い出させるような笑みを浮かべて、俺は慌てて目を逸らした。
って、ちがうちがうっ、ここで話をはぐらされている場合じゃないっ。
いや、確かに…いい思いはしたんだけど。
って俺、今怒ってるんだろう?赤くなってる場合じゃないよっ。
「まあ、CDは啓太のものだし、俺も逃れられてよかった」
「…え?」
  手にしたままのCDを見てから、中嶋さんを見つめると、眼鏡のブリッジを持ち上げ口の端を吊り上げる。
それって、一体どういう…。
「な、…中嶋さん?」
「頑張れよ」
  つ、つまりは…このCDは俺のもので、その徹夜ものの仕事も俺がしなくちゃいけないって、中嶋さんが言っているのはそういうことなのかっ?
「そ、そんな…っ!中嶋さんっ!!」
  突然振ってきた災難に青ざめて中嶋さんをすがるように見つめても、浮かべるいじわるそうな笑みはそのままだった。
「…何でもするんだろう?」
  そんな、だからって…そんなのひどいよっ!!
確かに交換したのかもしれないけれど、あの時は中身を知らなかったからじゃないか。  
 俺の言い訳なんて聞こうともせず、楽ができると言って中嶋さんはさっさと寮に戻ってしまった。  

  俺…この憤りを一体誰にぶつければいいんだ?  





 後々、俊介に問い詰めて聞き出したのは、中嶋さんは外部の郵便から俊介のデリバリーに至るまで、バレンタインデーだけでなく、どう見ても用事とは思えない贈り物のようなものは一切、中嶋さんの了承を必要せず処分するよう話をつけているということだった。
  必要のない人物は視野にも入れようとしない中嶋さんらしいよ。
結局の所、中嶋さんにどれくらいのチョコレートが届くのかはわからないまま。
だって、中嶋さん本人さえも知らないんだから。
俊介もそれ以上は企業秘密なので教えてくれない。
「知らなくてもええこともある」と俊介が 言った言葉が気になるけれど。
 俺は知らなくていいのかもしれないな。
 たった一つのチョコレートであんなに嫉妬してたら、身体がいくつあっても足りないもんな。


  それからしばらく、俺は放課後になると王様を追いかける毎日が続くのだった。










(END)