■白濁チョコレートvol,4■


俺は作り直した。
最後までやりとおしたいとせがんだのは自分だった。
こんな真夜中まで中嶋さんに付き合わせてしまうのは申し訳なかったけれど、ここまま許してもらおうなんて思えなかった。
それに作り直したら、できれば中嶋さんに食べてもらいたい。
今度は誰かに負けない為に作るんじゃなくて、中嶋さんの為だけに作るから。
そう言うと中嶋さんは仕方ないと溜息をついたけれど、俺が作る間ずっと待っていてくれた。





 今度の容器は、プリンの容器じゃなくてお弁当に入っているような、白い紙でできたものだった。
これなら小さいし簡単にはずせて、見た目もましだろうと中嶋さんが教えてくれた。
渡す相手に教えてもらうなんて情けない話だ。
だけど俺のレベルでは結局、前とたいして変わらないものにしかならなかった。
固まりきらないままのチョコを皿に乗せて、食堂で待つ中嶋さんに持っていく。  
  中嶋さんは、行儀悪くテーブルの上に乗り上げて、片方の足を立て肘をつきその腕でタバコを吸いながら、窓の方を向いて満月が浮かぶ空を見ているようだった。
「中嶋さん…、作り直しました…」
  俺はまだシャツ一枚のままで中嶋さんに近づいて、覚悟を決めて勢いよく皿を差し出した。
とたん前を隠していたシャツがはだけて前が露になってしまい、慌てて右手でシャツを掴みなおす。
恥かしさに中嶋さんをまともに見れない。
月明かりだけといっても、食堂は明るい。遠くにいれば人の輪郭ははっきりしないけど、至近距離まで近づいたら白い光に照らされてとてもよく見える。
さっきの情事を残したままのそこも、はっきりと見えてしまうだろう。
だから見せるわけにはいかない。
俺のそこは少しだけだけど…反応したままの状態だったから。
食堂で中嶋さんが待っている、すぐそこで、俺を待っている。
そう思うだけで、チョコを作っていながら体が熱くなるなんてきっとおかしい。  

  中嶋さんがたばこを口から離して、俺の方を向いてテーブルから右足を下ろし、
左足を角にひっかけて膝を曲げてしばらくの間無言で皿の上を見下ろしている。
はっきり入って、入れ物が変わっただけにしか見えないシロモノ。
…やっぱりまた作り直しかもしれない。
「…どうしても食べさせたいのか?」
  つまりは、こんなものでも食べなければいけないのか、と聞いているのだ。
そうだよな、こんなもの無理矢理食べさせるなんて拷問だよな…。
「いえ、できれば…でいいんです…けど…」
  中嶋さんが、ポケットから小さなケースを取り出しその中にタバコをしまうと言った。
「……要は味だな、味見させろ」
  俺はまだ固まっていないひとつを左手で恐る恐る掴むと、ぐしゃりと柔らかい感触がしてチョコがつぶれて、指先に生暖かいチョコがついた。
まともに冷やしてないからやっぱり全然固まっていないのだ。
慌てて謝ろうと振り仰ぐと同時に、その左手を掴まれた。
引き寄せられて何をするのかと思ったとたん、 綺麗な形をした薄い唇が開いて、赤い舌が覗くのを、俺は口を開けたまま呆けた顔で見つめた。
「…っ!」
  俺の人差し指が、中嶋さんの口の中に消えた。
嘘だ、と思ったのは一瞬で、突然の感触に思わず声が上がりそうになる。
第二関節ぐらいまで咥えられて、中で中嶋さんの舌が指先にからみついてきた。
「…ぅ、ぁ…っ」
  指先を舐められているだけなのに、一気に腰がくだけそうな快感が襲ってきて声を抑えるのを忘れる。
中嶋さんの舌の感触。
濡れた音をたてて、中嶋さんは執拗に俺の指を舐め続ける。
チョコを舐めているんだ、そう思っても身体の反応は正直だった。
中嶋さんの口の中に俺の指が入っているところを見ているだけで、頭がくらくらしてくる。
軽く噛まれて、俺は泣きそうな変な声を上げてしまった。
小さな、濡れた音。
俺の指を中嶋さんが舐めている音。
キスをしてくれる、その唇が今、俺の指を…咥えている。
俺は…無意識に腰を揺らして小さく喘いでいた。
指の付け根まで咥えてきつく吸われ、腰が抜けそうになり思わず中嶋さんのシャツをつかんでしがみついてしまう。
シャツが引っ張られて、中嶋さんの鎖骨が露になり俺は思わず唾を飲み込んだ。
月明かりの下、その肌が青白く輝いている。
「…ぅ、あ…っ」
  じいん、と背筋に甘い衝撃が走って思わず目を閉じた。
シャツの下に隠れたその身体を思わず思い浮かべたから。
男の人の体なのに、中嶋さんだというだけで想像するだけで恥かしさに頭が破裂しそうになる。
中嶋さんの肌を、もっと見たいけど…こわい。
自分がどうにかなってしまいそうでこわいからだ。  
  小さな音を立ててふい、と中嶋さんが俺の指を離したその自分の手を、俺はほとんど無意識に自分で咥えていた。
名残惜しいというより、濡れている中嶋さんの唾液を味わおうとして。
必死で舐めていると、中嶋さんが小さく笑う声がして我にかえって手を抜いた。
「…啓太も味見するか?」
  からかうような言い方に頭に血が上る。
俺、今すごいことしてたんじゃないか…?
  中嶋さんが、俺が右手に持っていた皿を取りあげてテーブルにおくと、中の一つを俺と同じように右手の指で掬い、長い指の先を俺の唇に近づけた。
俺は、ふらふらとその指に口を寄せて、指に塗られた茶色のものを緊張しながら舐めた。
少し苦いかな、と頭の端で思う。
舌先で、そっと舐め続ける。
中嶋さんの指の味だ。
とても長くて骨ばっているけど、決して無骨じゃない。
神経質そうだけど、とても大きくて、厚みがあって。 筋が綺麗に張っていて…。
ほとんどチョコを舐めてしまっても指を離さず、人差し指を咥えてみた。
ゆっくり指の付け根まで咥えて、舌をからめてみる。
1本だけなのに思ったより大きくて、俺の口の中がいっぱいになっているような気がする。
舌で舐めては、口をすぼめ、吸ってみた。 唾液が溢れる。
1本だけじゃ物足りなくて、中指も咥えてみた。
一気に圧迫感が倍増して、俺は体を震わせてしまう。
  …何をするために中嶋さんの指を舐めたのかなんて忘れてしまっていた。

「…ん…っ」
  動かなかった指が俺の口の中でいきなり動いて、俺はくぐもった声を上げた。
俺の口の中を探るように、ゆっくりと。 かきまぜられるような動き。
俺は顎を上げて首を振るけれど、よけいに動かされて背筋に電気が走る。
抽挿するような動きに、俺は声にならない声を上げていた。
溢れる唾液が中嶋さんの手の甲を濡らし、俺の顎を伝っていく。
頭を振るほど指を乱暴に動かされて顎を逸らして悶えてしまう。
何かを思い出させる動き。
もっと熱くて、大きくて…俺の口を蹂躙していくもの。
そう気が付いたら、ますます気持が高ぶってきて止められなくなる。
指が3本に増やされて、足ががくがくと震え始める。
完全に立ち上がった俺の中心からはとめどなく熱いものが溢れて、根元まで濡らしている。
前を隠していたはずのシャツが完全にはだけてしまっているのにも気が付かない。

  あの時、俺は中嶋さんのを…はしたないほどにしゃぶりついた。
むせ返るような熱気と、中嶋さんの味…唾液が溢れて、止まらなくて。
男のそこを咥えるだけで、あんなに…興奮するなんて信じられなかった。
その感触が身体に焼き付いて、離れない。

「…今何を考えた?…啓太」
  上顎を指先でなぞられて、口が痺れて答えられず首を振る。
「ぁっ…」
いきなり強引に引き抜かれて、俺はよろめいて中嶋さんにもたれかかった。
テーブルに腰を下ろしたその胸に頭をのせて、布越しでもわかる中嶋さんの熱い体にいきなり触れて眩暈がする。
「何を考えたのか言うんだ」
「俺…、なにも…っ」
「…啓太」
  きっと気が付かないわけがないのに、言わせようとしてるんだ。
だけどその強い問いかけに俺の部屋での中嶋さんを思い出してしまい、いつものように抵抗することができなかった。
俺は恥かしさをこらえて、口を開く。
「…な、かじまさん、の…を…っ」
「俺の…何だ」
それ以上答えられなくて、俺は首を振る。
「言うんだ」
  中嶋さんの体から伝わる熱さに、頭が朦朧とし始める。
恥かしさに涙ぐんで、目をきつく閉じる。
「……なかじま、…さんの…   、を…っ」
  自分の言葉に、恥かしさで頭が真っ白になる。
「考えるだけでこんなに漏らすのか?」
「…ひっ!」
  俺の唾液で濡れた中嶋さんの指先が、濡らし続けるそこの先端をなぞった。
からかいを含んだその言葉に、一気に射精感がこみあげてきて体が硬直する。
出てしまうのを必死で堪えて、強く閉じた目尻から涙が伝った。
「…また咥えてみたいか?…啓太」
  とまどったのは…一瞬だった。
中嶋さんにしがみついたまま、小さく頷いてしまっていた。
小さく笑うような吐息が聞こえたのはきっと気のせいじゃなくて、恥かしさに目を合わすことができない。

  …震える手で、俺の腰の位置にある中嶋さんのベルトに手をかけた。
力の入らない手で、ベルトをはずし、ズボンの止め具をはずしていく。
中嶋さんの、そこをまた…見れる…んだ。
そう思ったら、ますます手が震えてしまって、チャックがうまく下がらない。
右手だけでは下げられず、両手を使ってゆっくりとチャックを下げていく。
唾がこみあげてきて、それを飲み込むことも忘れて。
そこから目が離せない。
暗い色の下着が見えて…その布がはちきれそうな程に膨らんでいる。
布を引き下ろして、暗い茂みと中嶋さんの半ば盛り上がっているそこが見えた。
そのとたんだった。

「――――ぁ――――」
身体が大きく震えて、突然俺のそこから熱いものが溢れ出した。
どれだけ我慢しても、もう止められなかった。
あっけないほどに、いきなり。
ぽたぽたと床に白いものが滴り落ちる音を、気が遠くなりそうな中で聞いていた。
俺はみっともなく…垂れ流してしまったのだった。


 すべてを出し切った後…俺は中嶋さんを見ることができず、俯いたままでいた。
みっともなさすぎて恥かしすぎて、謝る言葉さえ思い浮かばない。
「……我慢のきかないやつだ」
「……ご、ごめんな…さ…っ」
  また、俺は…中嶋さんよりも先に、何もできずにイってしまった。
小さな溜息が聞こえてきて心臓が痛む。
  力が抜けていきそうになる俺の前で、中嶋さんが何かを取り出した。
それは、白い…リボンのように見える。 それを俺の手にそれを掴ませた。
「俺が食べ終わるまで縛っておけ、またいきなり出されたら服が汚れる」
「な、中嶋…さん…っ!」
  いくら俺が…早いからって、それはあんまりだった。
俺は首を振って抵抗する。
「そんなのいや…いやですっ! もう、もう出しませんから、絶対に出しませんから…っ!」
  そんなものを結ばれてしまったら、恥かしさにどうにかなってしまう。
「じゃあ、俺に跨って食べさせてみるか?最後まで出さずにな」
  結ばれることは回避できたことにほっとして、俺は何度も頷いた。
これ以上先に出てしまったら、中嶋さんに完全に呆れかえられてしまう。  
絶対にもう出さない、と固く決心して、俺は動いた。  








(→vol,5)