□甘い抱擁 後編□



 王様が保健室のお世話になったという話は、次の日には殆どの生徒に知れ渡っていた。
 休み時間になると、誰かが勝負の結果を知らせに教室にやってくる。
 チャンスだと思ったんだろう。同好会の人達が、休み時間ごとに王様に勝負を挑んでいた。今のところすべて王様が勝っているらしい。勝敗が知らされる度、ほっと胸を撫で下ろす。
 まだ熱は完全に下がってはいなかった。
 学校に行こうとするのを何度引き留めても、王様は聞き入れてくれなかった。休めばまた弱みを見せることになると言われた。
 その頑なな態度は、俺を頼りにしていないようにも思えて、悲しくなった。
「次、なんと三つの同好会とやるんだってよ」
「順番にか? そりゃあすげえな」
 クラスメイトの会話を耳にして、驚いて話を聞いた。今日の昼休みに、連続で三つの同好会を相手にするらしい。
 三つなんて、いくらなんでも無茶すぎる。次の授業が終われば、もう昼休みだ。
 誰かに相談して、勝負なんて止めさせなければ。すぐに中嶋さんの顔が浮かんで、助けを求める為に三年生のフロアに向かう。
 階段を上がっている途中で、授業が始まるベルが鳴った。その音に俺はふいに立ち止まる。
 ……また、俺は助けを求めようとしてる。
 昼休みになってすぐ、三つの同好会うちの一つが待っているという、体育館倉庫の前の小さな中庭へと向かった。


 どこの同好会が相手なのかは知らないけれど、場所はここで合っているはずだ。
 王様は、まだ一つめの同好会と争っている。だけど、もう二十分もすればここにやってくるだろう。
 その前に、何とかしなくちゃいけない。次第に緊張してきて、身体をほぐそうとその場で軽く飛び跳ねてみる。
 数人の話し声が聞こえてきて、足音と共にこちらに近づいてくる。先に俺に気付いた気配がして、顔を上げた。
「なんだ、新入生じゃないか」
 未だに新入生と言う連中は、柔道同好会しかいない。
 MVP戦で嫌という程見かけた三人は、怪訝そうに俺を見つめていた。リーダーだという渡辺という男が、一歩前に出てきて俺の前に立ちはだかる。
「丹羽はまだか、新入生」
「王様は来ません。今日は、俺が相手です」
 しばらくの沈黙の後、弾けたように三人が笑い始めた。かんに障るその笑いに腹が立って言い返す。
「何がおかしいんだ、俺だって学生会なんだから、文句ないだろ」
 それでも三人は笑い続けて、なんの冗談なのかと逆に聞き返してきた。渡辺が小馬鹿にしたように俺を見下ろしてくる。
「あのなあ、同好会っつっても一応俺達は全国に出た経験があるんだぜ。素人相手にするほどおちぶれちゃいねえんだ」
「そんなこと知るかよっ、とにかく、俺に勝てば体育祭に出られるんだから、さっさと勝負しろ!」
 冗談で言ってるわけではないらしいとようやく感じたらしい。一歩下がって三人で何か相談したあと、一番小柄な永原という男が前に出てきた。
「言っとくが、やるからには容赦はしねえぜ」
 ひひ、と下品に笑って、永原が姿勢を低くして構えた。俺も同じようにして身構えるけれど、当然柔道の構えなど知らない。ただ王様みたいに襟首を掴んで、ひっくり返すか足をひっかけて転ばせればいい、その程度の知識しかない。けれど、不思議と恐怖はなかった。
 どんな方法を使ってでも、勝ってやる。
 殆ど同じ身長のこいつなら、死ぬ気でやれば絶対にうち負かせる。
 じりじりと間合いを詰めて、永原が次第に近づいてくる。一瞬でも隙を見せれば、身体を捕まえられれば確実に負ける。
 あと数秒もすればどちらかが動く――その時、耳に聞き慣れた声が入ってきて意識が逸れた。
 とたん襟首を掴まれて、あっという間に自分の身体が宙に浮いた。直後に全身に痛みともつかない激しい衝撃が襲って、息が止まる。
 視界に広がった青空がぼやけて、俺は一瞬で投げられたのだとわかった。
 その時、誰かが大声で俺の名前を呼ぶのが聞こえて、永原の悲鳴が響きわたる。すぐ側で、王様が永原の襟元を掴み上げ、高々と持ち上げていた。
「王様……」
「てっめぇ……素人相手に……っ!」
 聞いたこともないような、低くこもるような声だった。背筋が凍るような冷たいそれに危機感を感じて、這いずっていき王様の足を掴む。
「ちが、違います、俺が頼んだんです……っ」
「啓太は黙ってろっ!」
「止めて下さい、お願いです、止めて下さい……!」
 王様が引き連れてきたギャラリーが俺達の様子を見つけて、何事かとざわつき始める。
 誰かが俺を抱き上げて、王様から引き剥がした。中嶋さんにギャラリーがいる場所まで引きずり出される。戻ろうとするとすぐに止められた。
「黙って見ていろ。また邪魔したいのか」
 三人の喚く声がして振り返ると、かろうじて投げられるのを逃れた永原が走って逃げていくところだった。王様がゆっくりと、残った二人との距離を近づけていく。それに合わせるように二人が後ずさる。
「あ、あ、あいつが相手は俺だって言ったんだっ、俺達は悪くねえっ」
「……そんなこたぁわかってんだよ」
 乱暴な言い方なのに、驚くほど落ち着いた声だった。
「さっき勝ったんだから、もう勝負はついたんだよっ」
 いつも不敵な笑みを浮かべているはずの王様の顔は、凍り付いたように表情がない。
 だけど、青ざめているようにも見えるその裏で、今にも何かが爆発しそうになっているのはわかった。その緊迫感が、俺だけでなく、回りにいた皆も黙らせている。
「お前達は、この俺が絶対に、体育祭に出られなくしてやる。違う意味でな」
 数秒もすれば、王様が行動を起こすだろう――だけどその瞬間を待たずに、二人が散り散りに逃げ出した。
 一瞬にして、王様の前に誰もいなくなる。
 長い沈黙の後、周囲から溜息のようなものが聞こえ始めた。
 三人は逃げて正解だった。戦っていれば、きっととりかえしのつかない事になっていた。最悪の事態が回避されたのだ。
 皆が校舎の中へと入っていき、中嶋さんも俺の肩を軽く叩いてから去っていった。
 中庭には、王様と俺だけが取り残される。
 王様は立ちつくしたまま動かない。俯いているせいで、表情も見えない。
 恐る恐る近づいてみても、かける言葉は見つからなかった。握りしめた拳は、投げられた時に少し擦り切れたんだろう、少し痛い。
「……さま」
 頭も痛むけれど、そんなことはどうでもよかった。
「……おう、さま。ごめんなさい……俺、勝手に……」
「……大丈夫なのか」
「あ、……はい」
 突然しゃがみこみ、落ちていたブレザーを掴む。立ち上がり、ゆっくりと俺を見下ろした。
 怒ってはいなかった。ただ静かに、悲しそうな目をしているだけだった。
 どれだけ、俺のせいで王様に迷惑をかけたかを思い知らされたような気がした。
「あの、今日は迷惑かけたけど……次は、俺にやらせて下さい、ちゃんと練習して、強くなって」
「やめとけ」
 遮るように返ってきた言葉に思わず頭を上げた。
「お前には無理だ」
 その目は、冗談を言ってるわけではないと告げている。
「どう、して……そんなこと……、どういう意味なんですか……!」
「啓太には、似合わねえって言ったんだ」
 びくともしない厚い胸を、何度も叩いた。涙が溢れてきて止まらなかった。
「そんな言い方って、ないです……っ、俺だって王様を守りたいのに……っ!」
 王様に拒絶されたら、俺が側にいる資格なんてない。
 ただ守られる存在なら、他にいくらでも見つかる。俺でなくたっていい。
「少しぐらい俺を頼って下さい、そうじゃないと、俺、駄目になってしまうんです……っ。王様に甘えてばかりで、いい気になって……っ、いつか、きっと俺のこと嫌いになる……っ」
「だからって、こんな無茶な事をしたってのかよ!」
 怒鳴られてびくついた身体を、息が出来ない程強く抱きしめられた。先程の喧嘩では爆発しなかったものが、突然噴き出したような激しさだった。
「俺が、どんな気持ちで……、……っ」
 王様の声は苦しく、つらそうだった。熱い身体から、怒りとは違う、もっと深い感情が流れ込んでくる。
 それは俺を庇いきれなかったという後悔に違いなかった。
「……ごめん、なさい……王様……、ごめんなさい……」
 涙と一緒に、言葉が自然に零れ落ちた。


 手の擦り傷以外身体はどこも痛くなかったけれど、また学生会は休むように言われた。
 だけど、寮に帰る前に少しだけでも王様に会いたくて、授業を終えた三年の教室に向かった。
 いくら探しても姿が見えなくて、教室から出てきた篠宮さんから午後の授業は出ていないと聞かされる。
 一体、どこに行ったんだろう。
 学生会室にも保健室にもいなくて、すぐに寮へと戻った。熱がぶりかえしているのかもしれないと思ったからだ。だけどいくら部屋をノックしても反応がない。
 ここにもいないと部屋から離れたその時、背後でドアが開く音がして振り返った。
「王様……っ」
 部屋の中に入ると、ベッドの縁に背中をもたれさせ、王様が床に腰を下ろしている所だった。
「授業を休んだって聞いて、俺、また熱がひどくなってるのかと思って……」
「もう何ともねえよ」
 ぽつりとそう呟いたきり、機嫌が悪そうに黙り込んだまま、全く口を開かなくなる。俺も、その側で静かに座った。何度顔色を伺ってみても、その表情は固い。
 俺のしでかした事を許しているわけじゃないんだと、今頃気付いた。ただ会いたくてここにやってきたけれど、来るべきじゃなかったのかもしれない。
 まだ怒っているんだとわかったから、更に声をかけづらくなってしまった。
 だけど、気まずい空気が長く続いて、次第にいたたまれなくなってくる。もう一度謝ろうと覚悟を決めて顔を上げると、王様の視線とぶつかった。
「俺が悪かった。すまねえ」
「えっ……」
 突然謝られて驚いていると、すぐに視線を逸らされる。
「どうもお前に関しては感情が先走って、言葉が足りなくなる」
 乱暴に自分の頭を掻いて、俺から見えないよう顔を背けた。困惑しているような表情が一瞬見えたような気がする。
「啓太が弱いからとか、そういうふうには思ったことは一度もねえよ。お前は一人でやろうと思えば何でもできるって事ぐらい、十分わかってる。俺なんて本当はいらねえって事もな」
「そんなことっ」
 思わず身体を乗り出すと、まあ聞けと止められる。
「俺は昔から何でもやれちまったし、同年代の中では一度も負けた事がなかった。だから、いつも誰かを守ってやる役目ばかり回ってきたんだ。今までそうやって生きてきたから、いつの間にか、俺の存在価値は誰かを守ることでしか見いだせなくなった」
 考えてもみなかった。
 何もかも秀でていて、誰からも慕われている王様がそんなふうに思っていたなんて。
「だから、お前を守ってやるのは、全部俺の我が儘なんだよ。嘘でもいいから、俺に役目を与えてほしいんだ。そうでなきゃ、崩れちまうんだ」
 近づいて顔を覗くより先に、王様に俺の肩を掴まれ引き寄せられた。強く抱きしめられる。
「……もう少しだけでいいから、そのままでいてくれ。お前を守るのは俺だけだと思わせてくれ。あんまり早く追いつかれると俺が困るんだ」
 広い背中に腕を回して抱きしめ返すと、熱いくらいの体温が伝わってくる。
 王様も、俺と同じような事を思ってた。
 二人とも、側にいる理由がほしくて悩んでた。
「……俺、王様にはいつまでも追いつかないですよ。だから、ずっと側にいて下さい」
 同じ視線でいたことがわかったからこそ、王様みたいになりたいと強く思った。
 この人が俺を守る以上の力で、いつかこの人を守れるようになりたい。
 だけど、焦ってその方法を見つけなくてもいい。ゆっくり、これから二人で考えていけばいい。
 このままの自分でいいんだって言ってくれたから。
 少し赤くなっている耳元にキスすると、大きな手で頬を包まれた。目を閉じると、王様の唇が重なる。
 皮膚を触れあわせるだけで離れていくのが物足りなくて、今度は自分からキスをした。
 肉厚の唇の感触を味わっているだけで、王様の熱さが伝わってきそうだ。
 被さるように唇を覆われて、自然と唇が開く。舌と舌が触れて、小さく身体が震えた。そのせいで唇が離れて、交わすはずだった唾液が糸を引いていく。
「……好きです、王様……俺、ずっと……」
 つらそうに眉を寄せた王様が俺の腰を引き寄せる。途端、痛みを感じて小さく呻くと、王様が驚いて身体を離した。自分でも気付かなかったけれど、投げられた時に打ったんだろうか。強く押さえると腰のあたりに僅かな痛みがある。
「どっか痛むのか」
「いえ、少しだけです、気にするほどじゃあ……」
 そう答え終わるより先に、王様が立ち上がり部屋を出ていこうとする。
「ちょ、どこに行くんですかっ」
「駄目だ、やっぱり気がおさまらねえ、ちょっと絞めてくる」
 慌てて立ち上がり、ドアを開けようとしている背中を捕まえる。
「もういいですってば、王様っ。それより、このまま俺を置いてくつもりなんですか……っ」
 思わず口にしてしまった言葉を聞いて、王様が動きを止めた。
「あの、いや、そういうわけじゃなくて、……その、……」
 語尾がしどろもどろになっていくのも恥ずかしくて俯くと、壁に背中を押しつけられた。驚く暇もなく、唇が塞がれる。
「ん、……ん、っぅ……」
 噛みつかれそうな程乱暴に、俺の唇の上を這い回る。本当に唇ごと軽く噛まれて、痺れる舌ごと吸われた。
 腰が抜けそうになって、王様の手に身体を支えられる。
 唾液を伝わせながら唇が首筋に下りてきた時には、俺はもう肩で息をしている状態だった。
「お……さま……」
「身体の事、気い遣ってやれねえぞ……、いいのか」
 シャツのボタンをゆっくり外されていくのがもどかしい。わざと焦らしているのがわかるから、早くとせがむ。
「も、……はや、く……、……っひ……っ」
 数個しか外されていないのに、その隙間を強引に開いて乳首を舐められた。強い快感に、悲鳴のような声を漏らしてしまう。
 唾液をまぶしながら音を立てて吸われて、すぐに固くしこった。王様の舌が先端をつついては、食い込むまで押しつぶす。
「やぁ……」
 下半身をズボン越しに撫でられて仰け反った。俺をあやすように唇にキスをしながら、ベルトを外していく。ズボンを脱がされ、下着の中に手を入れられた。
「あ、あぁ……、……ッ」
 大きな手が、竿を掴んで擦ってくる。王様の手や下着が濡れて、耳を塞ぎたくなるような水音が部屋に響きわたる。
「……も、おう、さま……、恥ずかしい、から、そんな……しないで……っ」
「ちょっと黙ってろ。あんまかわいい事言われたら、ゆっくり味わえなくなっちまう」
「かわいくなんて、ないです……っ」
「こんなにして……かわいい以外にどう言えばいいんだ」
「あ、……っん、ん……っ」
 耳元で囁かれながら、カリの割れ目に沿って、親指の腹でゆっくりなぞられた。
「それとも、素直にやらしいって言った方がいいのか?」
「イヤ、だ……、やらしくなんか、ない……」
 音をわざと立てるように扱かれて、大きな手の中のそれは自分の先走りでもみくちゃになる。手の中に、自分から腰を突き出してしまうの見て、王様が小さく笑った。下着までずり落とされて、俺のソコを見下ろされる。
「これのどこがやらしくないんだ」
「ぃやだ……ぁ」
 次第にその目が情欲に染まっていくのを見ていれば、ますます身体が高ぶっていく。
 王様が床に膝をつき、俺の腿の片方を肩に担いだ。
「おうさま……!」
 俺のソコを銜えるのに驚いて、引き剥がそうと頭を掴んだ。根本まで銜えているのを見てしまって、逃げようと身体を捩る。
「やだ、や……だっ、王様が、そんな、こと……、や、あ……」
 王様が俺の前でかしづくなんて、してほしくない。
 俺に頭を下げているように思えて、必至になって頭を引き剥がそうとする。
「お願い、やめて下さい……っ」
 悲鳴のような声に、王様が唇を離した。その濡れたままの唇で、あやすように足の付け根に何度キスしてくる。
「そんなことまで、俺に、しないで下さい……っ」
 太腿を大きな手が撫でていく。それだけで肌が痺れてくる。
「……あのな、啓太。惚れちまった時点で、俺が負けてるんだよ」
 内股に舌を這わしながら、次第に上に上がってくる。先端から滴が垂れて、王様の頬に落ちた。ねばつくそれを指で掬い、厚みのある舌が舐め取る。
「啓太だけなんだよ、俺を跪かせるのは」
「や……ぁ――」
 再び、震えていたそれを口に銜えられた。
 暖かい唾液に包まれて、その中で静かに転がされる。自分のモノが、魚のように何度も跳ねて歯に当たるのを感じる。
 その後で、乱暴にしゃぶられるのだと思うだけで、鳥肌が立ってくる。なのに、王様は舌の上に乗せて遊ぶだけでいつまでも動かない。
 これ以上焦らされたら、それを待てずに自分から動き始めてしまう。
「お、ねが……ぬ、抜いて、下さい……っ」
 焦れて、腰を突き出すような動きになるのを計っていたように、王様がアソコを先端まで抜いて、舌で扱きながら銜えこんできた。床に唾液を零しながら、音を立ててしゃぶられる。
「っ、――ッ、ぅ、っう……」
 綺麗な唇に、自分のが出入りしているのを見ながら、俺はあっという間に射精した。眉を僅かに寄せながら俺の精液を飲み干している王様を、息を呑んで見つめていた。
 最後に残ったしわくちゃなシャツを脱がされ、王様も自分の制服を脱いだ。浅黒い肌が、次第に露わになっていく。
 麻のような手触りの肌は、触れるといつも熱い。汗をかくと、吸い付くような感触に変わる。胸元にキスをすると、王様が小さく息を吐くのが聞こえる。
 二人ともベッドに戻る余裕はなかった。背中を向けて壁に手をつくと、王様が俺の尻を押し開く。
「ぁっ、ぁ……」
 太い指がゆっくりと入ってきて、締め付けないよう力を抜いた。かき混ぜるように乱暴に出し入れされ、繰り返し前立腺を擦られる。長い期間をかけて拡げられ続けたそこは、すぐに快感を拾って柔らかくなっていく。
 三本をいきなり入れられて、身体の力が抜けて床にへたりこんだ。そのまま俯せになり、膝をついて四つん這いになると、王様に後ろから腰を掴まれる。
「もう、王様……」
「細え、腰して……」
 王様の先端が入り口に当たり、濡れた音をたてる。
「おう、さま……っ」
 太いカリが、ゆっくりと埋まっていく。滑らかな先端が埋まると、固い竿の部分が押し入ってきた。俺の肉を押しのけて、無理矢理拡げてくる。恐怖に近いあまりの圧迫感に、涙が零れた。
 俺の尻の中には到底入らないと思うほど、王様のそこは大きい。
 だけど、慣れていくうちに、その太さや大きさは、逆に強烈な快感をもたらした。すさまじい熱さと圧迫感だけで、王様を受け入れているのを全身で感じてしまうんだ。
 これ以上中に入るはずがないというところまできて、動きが止まった。尻にあたる固い王様の陰毛の感触で、すべて入ったことがわかる。
「ぁ、……っ、う……」
 身体の内側いっぱいに、王様の肉を感じる。
 馴染ませるように、王様の腰がゆっくりと動き始めた。上下左右に、回すように動かされる。深いところでしばらくそうして、中を溶ける程柔らかくしてから、王様は抜き挿しを始めるんだ。
 太い杭が刺さった状態で、細かく揺らされた。密着感が深まって、肉が次第に王様のに絡みつき始める。
 だけど、王様のそこはいつもよりずっと熱を持っていて、固い。いつもより早く動き始めそうになって、思わすそこを締め付ける。
「まだ、動かないで、ッぁ、く……」
 俺も、既に限界が近づいてる。このまま動かれればあっという間にイってしまう。意識を保てるかどうかわからない。
「あ、っあ、――ッ、……ぁ」
 入り口まで引き抜かれ、音を立てて奥まで突かれる。何度かそれを繰り返されたあと、今度は浅いところで出し入れされた。にゅぶ、と独特の音をさせながら、王様が前立腺の場所だけを擦ってくる。
 突かれるたび、俺のあそこから少しずつ精液が押し出されていく。視界が白くぼやけ、身体がしなった。
「啓太……」
 屈み込んできた王様が、俺の髪に何度もキスをする。身体をひねって王様を見ると、身体の中のモノが大きく膨らむのを感じる。
「あっ、……ッ、お、……さま……」
「駄目だ、今日は啓太がどうなっても、止められねえ……かも」
「いい、です。好きにして下さい……、俺、王様にだったら、何されて、も……っ」
 言葉は続けられなかった。一番奥まで入れられて、身体が前に倒れそうになる。だけど両腕を掴まれて、後ろに引き上げられた。上半身を浮かせたまま、王様が突き上げてくる。
「お、うさま……っ、や、ふか……、いよ、……ッ」
 前に逃げたくても、腕を引っ張られているから叶わない。俺の身体が振り子のように揺れるのに合わせて、叩きつけるように腰を使ってくる。俺の尻と、王様の腰骨がぶつかる音が響きわたった。
 全身を擦られていくような激しい快感に、俺は腰を揺らしながら喘いだ。やがてすすり泣きしかできなくなると、更に激しく突き入れられる。
「あぁ……っ、い……、あ……、ッ……」
 腕がようやく離された時には、もう王様に身体ごと揺らされていた。王様の先走りが中を濡らして、せわしない水音をたてる。
 俺のアソコからも、とめどなく精液が溢れて、床中に飛び散っている。
 荒い息や、せつなげに漏れる王様の吐息を聞いているだけで、身体の奥が濡れていく。
「啓太、……啓太」
「ぁ――ぁ……」
 王様のがひときわ大きく脈打った瞬間、俺のアソコから大量の精液が迸った。後ろをきつく絞めつけると、熱いもので中を散らされる。
 それが、王様の射精だと感じるよりも先に、俺は意識を飛ばしていた。


 王様の熱はそれからまたひどくなった。
 今度こそ休んでほしかったのに、同好会との勝負だけはしないからと言い含められてしまった。
 次の日の放課後、中嶋さんと二人で学生会室で仕事をしていると、王様が入ってきて驚いた。
「王様……っ、何しに来たんですか」
 まさか、学生会室に顔を出すとは思っていなかった。平気だと言い張るその様子は、いつもと全く変わりはないけれど、よく見ると目尻が少し赤い。
「風邪をうつしに来たのか、お前は」
 本棚の間から出てきた中嶋さんが、王様を睨んだ。うるせえと一言吐き捨てて、いつもの机に座り込んでしまう。
「もう出来そうなんだよ、体育祭の時間割表と、メンバー表が」
 そんな事務作業までしてたのかと驚いてしまう。いつもなら俺が担当する仕事じゃないか。
「ああ、それか。さっき見させてもらったが、どれもこれも雑すぎて使いものにならん。全部やり直せ」
「なんだと? これのどこが悪いってんだ」
 王様が座ったまま、書類を中嶋さんに向かって見せつけた。横からその書類を覗き込むと、時間割と思われるその表は、朝と昼の部とにだけ分かれているように見える。しかも殴り書きとしか思えないような文字で書かれている。
「真面目な後輩を見習ってくれるのはいいが、ここも見習え」
 中嶋さんが自分の頭を指さしながら言って、大きな音をさせて王様が立ち上がった。中嶋さんを掴み上げようと伸びた王様の手が、逆に捕らえられる。
「幸せ呆けか知らんが、身体も鈍ってるな。同好会相手の連勝もそろそろストップしそうだ」
「てめぇ……っ」
 挑発するような中嶋さんの言い方に、俺も次第に腹が立ってくる。王様を怒らせるような言葉を選んでいるようにしか聞こえない。
 目の前では言い合いが続いていて、いつでも取っ組み合いを始めそうな状態だ。俺も椅子から立ち上がり、二人に近づいた。
「伊藤の前で馬鹿にされるのは、そんなにくやしいか」
「好きなやつに、いいとこ見せたいのは当然だろうがっ!」
 鈍い音が響きわたった後、一瞬の沈黙が流れる。
「やめて下さいっ、王様はまだ風邪が治ってないんですよ!」
 中嶋さんの後ろでファイルを両手で掴んでいるのを、王様が呆然とした顔で見ている。
「行きましょう、王様っ」
 ファイルを放り出して王様の手を掴み、引きずるようにして学生会を出た。
 廊下を歩いている間も、王様はまだ口を開けたままだ。中嶋さんの頭をファイルで叩いた事ぐらいで、どうしてそこまで驚くのかわからない。
「ヒデがやられるのを、俺以外では初めて見たぞ……」
「知りませんよっ、あんな人」
 だけど、校舎から出て冷たい風に当たっていると、だんだんのぼせていた頭が冷えてきた。次第に、あれは王様を帰らせる為にわざとだったんじゃないかと思い始めてくる。もしかして、中嶋さん流の心配の仕方だったんだろうか。
 だけど、それにしたって言い方があるだろう。腕を掴んでいた手を下ろして、王様の手を握りしめる。
「……決めました。俺、はじめに中嶋さんから王様を守ります」
「はあ?」
 並木道を手を繋いで歩くのが恥ずかしいのか、落ち着き無く、頭を掻いたり辺りを見渡してる。
 けれど、離してやらないんだ。だって、大きな手も俺を握り返してくれるから。
「そのままでも十分、啓太は俺より肝が据わってるよ。まあ、そこが気に入ったんだがな」
 大きな身体が隠すようにして俺を包み込み、唇が下りてくる。
 キスをする為に、俺はゆっくりと目を閉じた。




END